スワーヴ復活V導いた欧州の若き天才騎手 夢のJC制覇「1週間は寝つけない」

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大事なのはムダな動きをなくして馬のエネルギーをタメること

「馬をいかにリラックスさせるか」とレース前に集中していたマーフィー 【写真:中原義史】

「こういったビッグレースの前には2、3の戦略を立てて乗ります。今回の枠順を見ると、1枠にカレンブーケドールがいて、2枠にワグネリアン。ルメールも4枠にいましたし、岩田さんの馬も6枠にいるなど、自分が強敵だと思っていた馬に囲まれていました。だから、道中はどの馬についていこうか、また、いかにスワーヴリチャードをリラックスして走らせるかということを、レース前には考えていました」

 1つの課題だったゲートを上手く飛び出し、中団より前めのインを確保。最終的にマークしたのは、日本での“ボス”である国枝調教師が管理するカレンブーケドールだった。

「僕がこんなに太ってなくて、53kgでも大丈夫だったらカレンに乗っていたかも……(笑)。でも、1コーナーからインのスポットを確保することができて、すごく満足でした。一番重要なことは馬をいかにリラックスさせるか。今日のような馬場はかなり厳しくて、時計も出ないコンディションでしたけど、そんなときに大事なのはムダな動きをなくして馬のエネルギーをタメることなんです」

 その言葉通り、スワーヴリチャードとマーフィーの折り合いは悪い馬場コンディションの中でもバッチリ。そして、持ったままの手応えで迎えた最後の直線、ここからがマーフィー最大の見せ場だった。

「いくつかオプションがあって、最初はカレンブーケドールをどかしていこうかと思っていました。スワーヴリチャードは体の大きな馬なので大丈夫かなと」

最内に突っ込んだ一瞬の判断力

1頭分だけ空いたスペースへ迷わず突っ込んだ一瞬の判断力はお見事 【写真:中原義史】

 2番手から抜け出しにかかるカレンブーケドールの内から馬体を当てて直線の進路をクリアにする作戦だったが、そうはさせまいとカレンブーケドールの鞍上・津村がいち早く、逃げたダイワキャグニーとの間にできたスペースを閉めにかかる。普通ならこの津村のファインプレーでスワーヴリチャードは行き場をなくしてしまうものだが、マーフィーはならばと、ここから間髪入れずに、内ラチとダイワキャグニーの間にあった1頭分のスペースに突っ込んだのだ。少しでも迷ったり、また視野を広く持っていなければ「勝負あり」の場面。この一瞬の判断力と思い切りの良さには、すごいというか、恐ろしさまで感じてしまう。そしてこの場面を外国人記者からも問われたマーフィーは、次のように振り返った。

「確かに一瞬の判断でしたけど、こういったときに、ふと2つか3つ考えることもあるんです。1つは前の騎手、馬がこのまままっすぐ走り続けるのか。1つは前の騎手がステッキを右手に持っているのか、左手に持っているのか。そして、自分は本当にこの位置で勝てるのか。今回は最内にスペースができたので、一番の最短距離を行こうと思いました」

 この騎乗には庄野調教師も「道中は勝つためのいいポジションをとってくれたし、最後の直線はスワーヴリチャードもマーフィーも勇気をもってあの位置から抜け出してくれた。本当によく頑張ってくれました」と最敬礼。一流外国馬の走りを目の前で見ることはできなかった今年のJCだったが、代わりにこれから10年、20年と欧州トップの一角に君臨し続けるであろう若き天才の真骨頂を堪能することができて、結果的には満足感の高いレースになった(馬券は散々でしたが)。

 そしてマーフィーは日本のファンに向けて、もっともっと日本でGIを勝つことを約束してくれた。

「これからも日本の馬と日本の友人との友情が長く続くことを願っています。日本の競馬は質が高く、世界にその名を馳せてきました。決して楽ではないことは分かっていますが、もちろんもっと日本のGIを勝ちたいです」

次走は有馬含めて未定、海外再挑戦はあるか

次走は年末の有馬記念含めて未定、どのような戦略を立ててくるのか楽しみだ 【写真:中原義史】

 一方、スワーヴリチャードも極度のスランプというほどではないかもしれないが、昨年の大阪杯以来、どことなく突き抜けるものがなくもがいていた苦しい1年半だったに違いない。この中間はコースから坂路調教に切り替えたり、チークピーシズを試すなど、新しい施策も果敢に取り入れてきた。庄野調教師が語る。

「確かにそれらの効果もあったかもしれませんが、坂路で追ったから、チークピーシズを着けたからとか、そんな単純なものではないと思っています。オーナーや牧場の方と相談し、この1年半は色々なことにチャレンジしてきました。今回の勝利をそれら様々な角度から見つめ直して、さらに強いスワーヴリチャードをファンの皆さんにお披露目していきたいですね」

 年末の有馬記念、さらに来年は再びのドバイや欧州競馬への参戦含めて「馬の状態を確認して、オーナーと相談してから」とトレーナー。成長力のあるハーツクライ産駒だけにまだまだ先を見据えられるだろうし、重適性も十分あると確認できたこの勝利は、スワーヴリチャードにとってとてつもなく意味のある1勝となったに違いない。選択肢が格段に増える中、日本・海外含めてどのような戦略を描くのか。外国馬が日本に来ない以上、このJCをステップに世界へと羽ばたいてほしいものだ。

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