現地記者の日本人選手ラ・リーガ奮戦記(月2回更新)

浅野が戦列復帰の一方で、久保はまさかのスタメン落ち 対照的な24年下半期を過ごした両指揮官の胸の内

山本美智子

膝の故障がようやく癒えた浅野が、ヘタフェとの24年ラストゲームでおよそ3カ月ぶりにスタメン出場。前線からの激しいプレスで1-0の勝利に貢献した 【Photo by Guillermo Martinez/NurPhoto via Getty Images】

 スペイン在住がすでに25年以上に及ぶ日本人ライターによる連載コラム。2025年からは月2回更新とし、レアル・ソシエダで3年目のシーズンを迎えた久保建英と、今シーズンからマジョルカでプレーする浅野拓磨の動向を中心に、文化的・歴史的な背景も踏まえながら“ラ・リーガの今”をお届けする。第5回目は、対照的な2024年の下半期を過ごしたマジョルカとソシエダの両指揮官に着目。マジョルカを上位に導くアラサテ監督とは何者なのか、そして24年の最終戦で久保をスタメンから外したアルグシアル監督の意図とは――。

快挙と言ってもいい6位での折り返し

 日本はちょうど三が日を迎え、お正月気分でのんびりと過ごしている方が多いと思うが、残念ながらスペインには「お正月」の概念はなく、年明け早々、日常に引き戻される。

 さすがに元日は全国的に祝日だが、1月2日が土日に当たらないかぎり、オフィスも銀行も郵便局も一般の店も、午前9時から通常営業だ。もちろんプロサッカー選手も例外ではない。

 2025年は元日が水曜日なので、2日の木曜日から練習を行うチームがほとんどだ。大抵は大晦日の午前中に通常トレーニング→元日はオフ→2日から練習というスケジュールになっている。

 ラ・リーガの再開は1月10日まで待たなければならないが、その間もサッカーが止まるわけではない。年明け早々にはスペイン国王杯の試合が組まれ、1月8日からはサウジアラビアのジッダでスペインスーパーカップ(レアル・マドリー、バルセロナ、アスレティック・ビルバオ、マジョルカの4チームによるトーナメント戦)が始まる。

 25年の“試合始め”の1つに、浅野拓磨が在籍するマジョルカの国王杯3回戦がある。キックオフは1月3日の19時(現地時間、以下同)、対戦相手は4部のポンテベドラだ。24年のラストゲーム、12月21日のヘタフェ戦(ラ・リーガ第18節)で約3カ月ぶりのスタメン出場を果たし、1-0の勝利に貢献した浅野。長く苦しんだハムストリングの怪我も完全に癒えたようで、年明け初戦の国王杯でもスタメンでその雄姿が見られそうだ。

 ちなみに、ヘタフェ戦の勝利で今シーズンのマジョルカがアウェーで勝ち点3を獲得するのは、実に5回目となった。アウェーでの勝率はリーグ4位の好成績。すでに30ポイントを手に入れ、前半戦を欧州カップ戦出場圏内の6位で折り返している。これはグレゴリオ・マンサーノ、エクトル・クーペル、ルイス・アラゴネスといった歴代の名将たちがリーグ前半戦で残した記録に次ぐ、マジョルカ史上4番目の好成績だ。

 消化試合が1つ多いとはいえ、ヨーロッパリーグ(EL)に参戦しているレアル・ソシエダ(7位)、チャンピオンズリーグ(CL)を戦うジローナ(8位)などに5ポイント差をつけて年明けを迎えたのは、戦力レベルを考えれば快挙と言ってもいい。

アラサテ監督のもとで実に楽しそうな浅野

監督就任1年目で、マジョルカを大躍進に導いている46歳のアラサテ。25年もこの好調を維持できれば、欧州カップ戦の出場権獲得も夢ではないだろう 【Photo by Octavio Passos/Getty Images】

 そこで、あらためて熱い視線が注がれているのが、今シーズンからマジョルカを率いるハゴバ・アラサテ監督の手腕だ。

 アラサテは、順位表で言えば半分から下が定位置と言えるようなチームを、きっちりと1部に残留させるマネジメントに長けた指揮官である。それを物語るのが、マジョルカにやって来る前に率いていたオサスナでの仕事ぶりだろう。

 2018-19シーズンに当時2部だったオサスナの監督に就任したアラサテは、わずか1年でチームを1部昇格に導く。スペインでは1部に昇格した時点で監督を代えるクラブが少なくないが、それは2部と1部では戦い方が異なり、2部で認められている監督が必ずしも1部で成功しないという考え方が、依然として根強くあるためだ。

 しかしオサスナは、1部昇格が見えた時点でアラサテとの契約を1年更新。そして迎えた1部での19-20シーズン、前半戦で10位の好位置につけると、クラブはアラサテとの契約を22年まで延長し、さらに残留が確実となった段階で24年までの長期契約を結ぶのだ。

 その決定が正しかったことは、すぐに証明される。1部で10位→11位→10位と安定した成績を収めたアラサテは、就任5年目の22-23シーズンに、チームを18年ぶりの国王杯決勝に導くのだ。決勝でマドリーに屈したものの、準優勝はオサスナのようなスモールクラブにとってこの上ない栄誉である。それだけではない。ラ・リーガでも7位に大躍進を遂げ、カンファレンスリーグ参戦への道も切り開いたのだ。オサスナが欧州カップ戦の出場権を得たのは、実に16年ぶりの出来事だった。

「3人の子どもの世話をしているだけで、あっという間に休日が終わってしまうんだ」

 そんな言葉を口にする、普段は家庭的なパパのアラサテだが、3年契約を結ぶマジョルカでは、オサスナ時代と同様、就任初年度から飛ばしている。

 オサスナを率いていた頃には、久保建英の獲得をレアル・ソシエダに打診するなど、日本人プレーヤーに対しても一切偏見がない。そんな彼のもとでプレーする浅野も、実に楽しそうだ。スタメン復帰初戦のヘタフェ戦では、相手ボールホルダーに猛然とプレスを仕掛け、縦横無尽にピッチを走り回り、ジャガー復活をアピールしていた。

 試合後、アラサテも浅野への賛辞を惜しまず、後半戦に向けての期待感を隠さなかった。

「私たちには拓磨が必要だ。今日の試合でも非常によく貢献してくれた。彼はトップ下でも右サイドでもプレーできる。私たちにとって大事な選手だし、彼がこのチームにいてくれることが大切なんだ。このままプレー時間を重ねていけば、後半戦では本当の拓磨を見ることができるだろう」

 国王杯のポンテベドラ戦の後には、スペインスーパーカップの準決勝、バルセロナ戦が控えており、年初からハードスケジュールが待ち構えている。果たして、前半戦で大きなサプライズを提供したマジョルカは、25年も好スタートを切れるだろうか。浅野の移籍後初ゴールにも期待しつつ、楽しみにしたい。

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著者プロフィール

スペイン在住は四半世紀超え。1998年から通信員として情報発信を始め、スペインサッカーに関する取材、執筆、翻訳の仕事に従事してきた。2002年と06年のW杯、04年と08年のEUROなど国際大会も現地で取材。12年からFCバルセロナの公式サイト、ソーシャルメディアを担当する

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