「トルメンタ」を見て高川学園を目指したエースが2得点 0-6から始まった青森山田超えの取り組み
高川学園が前年度王者・青森山田を2‐1で下した 【写真は共同】
しかし試合が始まると高川学園は球際、セカンドボールの争奪といった「バトル」で引けを取らず、前半40分をスコアレスで終える。後半にセットプレーとPKと2点を加え、最終的には2-1で逃げ切った。青森山田にとっては、10年ぶりの初戦敗退だった。
3年越しのトルメンタ
まずエリア内で4人が手をつなぎ、円形のフォーメーションで左回りをして相手のマークを混乱させる。しばらく間を置いた松木汰駈斗は右のコーナースポットから意表を突く短く低いボールを入れた。柿本陽佑のシュートは左ポストに跳ね返ったが、こぼれ球を金原知生が折り返し、最後は大森風牙が頭で押し込んだ。
江本孝監督にとっては「3年越し」の思いが詰まったプレーだった。高川学園は第100回大会の準決勝で、青森山田に0-6の完敗を喫している。
彼らのトリックプレーは当時SNSを通じて動画が拡散され、世界的な話題になっていた。ただ準決勝はトルメンタをする場面さえないほど、一方的な展開だった。
江本監督はこう振り返る。
「僕は(選手に)3年前の話をしていました。青森山田戦は(ゴールを狙える位置の)セットプレーを1回もさせてもらえませんでした。あのときの先輩のためにも、トルメンタを1回くらいやってくれないかな?と言ったら、やってくれましたね。まさか、その流れで点が入るとは思わなかったですけど……」
高川学園はセットプレーの攻撃面を完全に選手へ任せている。ただ言葉にせずとも、気持ちは通じていた。
「子供たちが考えてやってくれているので、僕はベンチから『何かやって』とは言ったんですけど、その『何か』をやってくれました」(江本監督)
トルメンタを見て入学した選手が活躍
高川学園の先制点は「トルメンタ」から生まれた 【スポーツナビ】
「まず相手のマークが自分たちに付きづらいです。トルメンタが警戒される分、他の部分が空いてくることも感じます。今の代は身長が小さいので、ショートコーナーから崩す形は(練習で)やっていました」
守備側はマークする相手が動き回るので、キックが入る直前まで誰に付くかを確定させられない。青森山田のDFは目の前を見すぎた結果、ショートコーナーへの対応が遅れた。さらにファーサイドに流れたボール、ゴール前と少しずつ対応がズレた。トルメンタに対して神経を使いすぎると、守備はその後の対応が鈍る。それがこのプレーの怖さだ。
チームの認知度向上という副次効果もある。大森は石川県のパテオFC出身。同チームの木村龍朗監督と江本監督には小学校の同級生という縁があり、中学2年生だった大森は3年前の第100回大会を観戦していた。
大森はこう言い切る。
「現地にいて、トルメンタを見て、ここに入りたいと思いました」
江本監督はこう口にする。
「色々なメディアさんが取り上げてもらったおかげで、選手たちが高川学園を知ってくれました。高校年代だけでなく、小中学校年代でも『自分たち発信でアクションを起こせる』ことが伝わって、そういうプレーがもっと出てくると面白いかもしれないですね」