連載:錦織圭、グランドスラム制覇への道

錦織圭、グランドスラム制覇の鍵は? 立ちはだかる2つの壁を乗り越えられるか

小野寺俊明

悲願のグランドスラム制覇なるか。錦織の前に2つの大きな壁が立ちはだかる 【Getty Images】

 ロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、ノバク・ジョコビッチ、アンディ・マレーの「BIG4」を脅かす、次世代の旗手として期待された錦織圭も、年末に30歳を迎える。すなわち、今年は20代最後のグランドスラム制覇への挑戦となる。2017年のケガから復活し、世界ランクを7位まで戻した錦織は、全仏オープン、さらにはその先のウィンブルドン、全米オープンで悲願を達成できるのか。錦織のこれまでの道のりを確認すると同時に、グランドスラム制覇へのポイントを整理したい。

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日本のトップとして走り続けた11年半

 錦織のプロデビューは2007年10月、17歳と9カ月だった。18歳になったばかりの翌年2月、デルレイビーチ国際テニス選手権で、当時世界ランク12位のジェームズ・ブレークを決勝で下し、初優勝を遂げた。

 さらに2カ月後には、世界ランキング99位(グランドスラムに予選なしで参加できる目安の100位以内に)に入った。08年のウィンブルドンでは1回戦負けとなるものの、グランドスラム初出場を果たすと、全米オープンでは4回戦進出。08年のATPワールドツアー最優秀新人賞を受賞するなど、将来を嘱望された。
 09年は右ひじの疲労骨折があり、一時はランキングを失ったが、翌年に復帰。11年10月には松岡修造の46位を超え、30位にランクアップ。日本人男子選手最高ランクを更新した。若きヒーローの誕生にテニス界だけでなく、日本中が盛り上がった。それは松岡修造が、1995年のウィンブルドンでベスト8進出を果たしたとき以来のものだった。

 また、錦織の活躍は先人の名前に光を当てた。ちょうど、イチローが記録を更新したとき、1920年に達成された年間最多安打記録の保持者、ジョージ・シスラーが思い出されたように。

 錦織が14年全米オープンでベスト4に進出(結果は準優勝)したときは、1933年ウィンブルドンの佐藤次郎以来、81年ぶりの日本人男子のベスト4進出だった。16年リオ五輪の銅メダルは、1920年アントワープ五輪で熊谷一弥が銀メダルを獲得して以来、実に96年ぶりの快挙となった。

 15年にランキングを4位に上げた錦織は、グランドスラム優勝も間近と期待された。しかし、頂点にはいまだ届いていない。だが、準優勝となった14年全米オープン以降、出場したグランドスラム15大会で決勝進出が1回、ベスト4が2回、ベスト8が6回、4回戦進出が4回。逆に3回戦までで敗退したのは3度と安定した成績を残している。

 選手生命の危機も噂された大ケガから復帰した18年も、しっかりと上位に進出した。全仏オープンは4回戦で敗退したものの、ウィンブルドンでベスト8、全米オープンでベスト4、そして2019年の全豪オープンでベスト8に進出。これで錦織はランキングを7位(2019年5月20日時点)として、現在9度目の全仏オープンに挑んでいる。

壁は「BIG3」と5セットマッチ

 ただ、悲願のグランドスラム制覇には超えなければならない大きな壁が2つある。ひとつは世界を15年間支配してきた「BIG4」。04年全豪から19年全豪までの15年間、合計61回のグランドスラムのうち、4人で54回の優勝を遂げている。そのうちマレーはケガのため、今季での引退を表明しているが、残りの3人はいまだ健在だ。
 37歳のフェデラーとの対戦成績は3勝7敗だが、直近の対戦となった、昨年のATPファイナルズ1次リーグで、初めてフェデラーからストレート勝ちを収めた。この勝利まで錦織は4年半以上、フェデラーに勝てていなかった。

 フェデラーは球速に加え、ボールを捉えるタイミングの早さや、動きの速さも含めたプレースピード全体の速さがツアー屈指だが、年齢からくる衰えが見えるようになった。体格で劣る錦織は単純なスピード勝負を避け、ショットの組み立ての工夫で勝機を見つけたい。

 全仏オープンで最大の敵となるのは“赤土の王者”ナダルだ。錦織の対戦成績は2勝10敗。ナダルの全仏での成績はすさまじい。05年からの14大会で11回の優勝。その間の成績は86勝2敗1不戦敗。コートに立てば、その勝率は97.7%と、突けいるスキがないように思える。

 だが、錦織は以前、全仏オープンと同じ赤土のクレーで行われた14年のマドリード・オープン決勝で、ナダルを追い詰めたことがある。この試合では思い切りよくポジションを上げ、速い攻めを仕掛け主導権を握った。それに加えて、守備の堅いナダルをいかにしつこく攻めるか、このあたりが勝利への鍵となる。

 そして錦織の天敵、ジョコビッチ。18年のウィンブルドン、全米オープン、そして19年の全豪オープンと、ここ最近のグランドスラムでは、いずれもジョコビッチに行く手を阻まれた。対戦成績は2勝16敗で、準優勝した14年全米オープン準決勝で勝ったのを最後に、15連敗中となっている。

 難しい相手だが「攻めさせておいて、いつか落ちてくるのを待つ」というジョコビッチの策にハマらないこと。攻撃一辺倒ではなく、時にはディフェンスからリズムを作り、ミスを誘うようなプレーも必要だろう。ジョコビッチを翻弄し、慌てさせることができればチャンスはある。
 そして、これらライバルとともに、錦織が戦わなければならないもうひとつの壁は、グランドスラム特有の5セットマッチと2週間にも及ぶ大会期間の長さだ。優勝するには1日おきに7試合を戦わねばならない。19年の全豪オープンで錦織は1回戦からフルセットのゲームを展開し、4回戦では5時間5分。準々決勝でジョコビッチと戦うまでの4試合で約14時間もプレーした。

 グランドスラム制覇のためには、上位シードと対戦する2週目に向けて、いかに体力の消耗を防ぐか。最低でも185センチ、2メートル前後の大型選手がランキング上位を占める中、178センチの錦織の体格面での不利はあらためて言うまでもない。

 一発で決めるビッグサーブを持つ相手に、世界屈指のリターン、ショットのバリエーション、速攻、フットワークと総合力で戦う錦織。これらの能力に加えて、栄冠をつかむ鍵は、男子ツアー歴代1位となる最終セットでの勝率75%が示すように、気持ちの強さと集中力だ。

「勝てない相手も、もういないと思う」と語った14年の全米オープンから5年、「心技体」の充実を迎えるであろう、30歳前後のこの時期、錦織圭にグランドスラムタイトルの獲得を期待したい。
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著者プロフィール

スポーツコンテンツクリエーター、スポーツPRコンサルタント。スポーツ団体や選手のサイト、テレビ局のスポーツサイトを数多く立ち上げたほか、スポーツ団体やチームの運営・広報、SNSやWeb戦略のアドバイザーを務める。2004〜16年はプロバスケットボール「bjリーグ」PRマネージャー、現在は卓球の「Tリーグ」でメディア・プロモーション部プロデューサー。また、2006年から11年まで中央大学商学部客員講師としてスポーツビジネスの教鞭をとった。著書は「BUZZER BEATER〜日本プロバスケットボール bjリーグ 11年の軌跡」「【FIFAワールドカップへ行こう!】現地観戦BOOK」など。

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