“イチロー語録”から哲学を読み解く 何を語ってきたのか
連載:第9回
イチローの言葉には人を惹きつける魅力がある。そのひとつひとつに耳を傾けたい 【Getty Images】
ユーモアあり、感情あり、メッセージあり、時に毒あり。
たとえその日、一言か二言しか話さなかったとしても、それが見出しになったのは、彼の言葉が持つ力強さゆえ。
伝説の深夜会見でも、多くがイチローの言葉に魅了されたが、臆することなく考えたこと、思ったことを言葉にできる表現力は、他に類を見ない。そして時に、その言葉のひとつひとつに野球哲学をにじませた。
イチローは何を語ってきたのか。言葉の数々をたどった。
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プロとして勝つだけが目的ではない
プロとしてのあり方、プロ意識を語った言葉も少なくなかった。
「一番になりたかったですね。僕は、ナンバ−ワンになりたい人ですから。オンリーワンの方がいいなんて言っている甘いヤツが大嫌い、僕は。この世界に生きているものとしてはね。競争の世界ですから。そういう意味で」
2008年のシーズン最終戦。ダスティン・ペドロイヤ(レッドソックス)とシーズンの最多安打争いを繰り広げる中、結局、213本でタイトルを分け合った。ハッとさせられるような言葉だった。
2004年10月1日(現地時間、日本時間2日)――シーズン最多安打記録を更新した夜には、こんな話もしている。
2011年9月13日、マリアノ・リベラ(ヤンキース)が通算600セーブを記録。1点を追う9回裏1死、イチローがレフト前ヒットを放って出塁。2死となって二盗を試みたものの、失敗。悔しさがにじんだ。
「あそこで行くことを止めたら僕はね、やっぱり、あそこで次も行けるかどうかだからね、結局、僕の価値っていうのは。行きたいなあ、とは思うけど、なかなかああいう局面でスタートを切ることは勇気のいることなんで、まあ、なかなか、難しいねえ。ただ、あそこでじっとしていることは簡単なことなんで、行きたいとは思うよね。まあ、行けるかどうかは分からない」
当時、リプレー判定があればどうだったのか、というぐらい際どいタイミングだった。それ以前に、あそこでスタートを切ったイチローにすごみを感じた。なお、カットボールを投げ続けたリベラについてはあの日、こう称えた。
「貫くのはすごいよね。言い方悪いけど、それでしょう、人の価値って。貫くこと、貫けるかどうかでしょう、生き方として。なんか、いいなあと思うよね。まあ、本人がそういう生き方をしているかは分からないけど、投球ではそうであって、貫けることって、やっぱりすごいよね」
キーワード:走塁
なお、走塁に関しては、こんなこともあった。2010年7月18日、アナハイム。延長10回、1死二塁の場面で打球が三遊間へ。二塁走者のイチローはスタートを切ったが、打球は抜けず、イチローは二、三塁間で挟まれた。裏には難しい判断があった。
「ワンアウトで、抜けて(ホームに)還れない選択肢は、僕には許されないですから。挟まれたらもう、打ったランナーを二塁にやるっていう、これももうプライオリティの問題ですね」
スピードのある選手だけが求められる宿命。
「走塁は難しい、ということですね。あれはもう、スピードのない選手には絶対に起きないことですから。別にその後、何を言われることもなく、スピードのある選手はあれを考えて、実際、あそこで行く勇気はすごいことだと思うし、でも結果ああなるとつらい立場に急になる――理不尽なとこがありますから、そっちを考えますけどね、僕は」
野球はかくも奥深い。ちなみに盗塁に関してはこんな考えを持っていた。2008年、8年連続30盗塁をマークした日、その一端を口にした。
「盗塁のスタンスは変わらない。抜きながらというのが、僕のスタンス。目いっぱいいってはいけない。そうやって人をだまさなければいけない。本来、その必要はないけども、人の目とは、そういうものだから」
キーワード:考える
プロとして、「考える」は常にテーマでもあった。2016年8月7日、メジャー通算3000安打を達した日に、こう言っている。
「バットを振ること――それ以外もそうですね。走ること、投げること、すべてがそうですけども、ただそれをして、3000はおそらく無理だと思いますね。瞬間的に成果を出すことはそれでもできる可能性はありますけど、それなりに長い時間数字を残そうと思えば、当然、脳ミソを使わなくてはいけない。使い過ぎて疲れたり、考えてない人にあっさりやられることもたくさんあるんですけど、それなりに自分なりに説明ができるプレーはしたいというのは僕の根底にありますから、それを見ている人に感じていただけるなら幸せですね」
自分なりに説明ができるプレー――。イチローの行動には必ず理由があった。