湘南ベルマーレ梅崎司の壮絶な人生 一緒に乗り越えたおかんと僕の物語
15歳のときに発したひと言が運命を変えた
壮絶な少年時代について、梅崎司と母・庭子さんが赤裸々に語ってくれた 【島田香】
「おかん、もう、この家を出て行こうよ」
それは梅崎にとって、まだプロサッカー選手になることが夢でしかなかった中学3年生のときだった。意を決して母親に発したひと言が、家族の未来を切り開いた。
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「サッカーの指導者をしていた伯父さんの家に遊びに行ったとき、近所の子どもたちと一緒にボールを蹴ったのがきっかけです。初めてだったからコテンパンにやられたんですけど、逆にそれで火がついたんでしょうね」
そう言って梅崎は笑う。母・庭子さんに聞けば、懐かしそうに話してくれた。
「司は生まれたとき、2600グラムしかなかったんです。おまけに早生まれというのもあって、小学生のときも(背の順に整列すると)ずっと前から2番目。でも、とにかく活発な子だったので、何か運動をさせようと考えていました。小学校のサッカー部で顧問をしていた私の兄に、『サッカーをやらせるなら早いほうがいいぞ』と言われていたこともあって、サッカー教室の見学に行ったんですね。そのとき、コーチの方に誘われて、グラウンドに飛び込んでいった司を見て、私は瞬間的に『これだ!』って思ったんです。だって、あんなに小さい司が、ボールを蹴っているときは、まるで3倍くらい大きく見えたんですから」
こうして梅崎はサッカーにのめり込んでいく。しかし、父親からはずっと猛反対されていた。梅崎が語る。
「物心ついたころから、ずっと父親には、自分がサッカーをすることを否定されていたんですよね。背が低かったので、『お前はすぐにつぶれる』と、ずっと言われ続けていたんです」
おまけに子どものころの梅崎は食が細く、それが原因で母親が父親にひどく責められている様子を目撃してきた。むしろ、それだけならば、まだ、ましだったかもしれない。父親は事あるごとに母親に暴力をふるってもいたのだ。
風呂場で母親の顔を沈める父親の姿が脳裏に焼き付く
昨年自伝を出版し、自身の過去を明かした。その理由を「誰かに勇気を与えられたら」と話す 【島田香】
「いつから気づいていたのかというのは、正確には覚えていないんですよね。たぶん、保育園のときには、何となく分かっていたと思います。一番、脳裏に焼き付いているのは、お風呂場で、親父がおかんの髪の毛をつかんで、湯船に何度も何度も頭を沈めていた光景です。それはほんの一部で、暴力はもう日常茶飯事でした。僕は怖くて、ずっと隠れていました」
梅崎は今季から湘南に加入。副キャプテンとして若いチームをけん引する 【Getty Images】
「司のことで言えば、小さいのは私のせいだと言われ続けていました。『司が小さかとはワイが悪か!(司が小さいのはお前のせいだ!)』って。だから、サッカーをやること自体に猛反対。なぜ月謝を払ってまでサッカーをやらせなければいけないのかって。私に対する暴力は年々ひどくなっていきました。時には、帰ってきて、『おかえりなさい』と言っただけで、殴られたことも……。司が小学生のころに一度、私が顔をぱんぱんに腫らしてサッカーの応援に行ったことがあったんです。さすがにママ友に『どうしたの?』と聞かれたので、思い切って打ち明けたんですけど、そのとき返ってきた言葉が『あんなにいい人が、そんなことをするはずはない。私はあなたがウソをついていると思う』だったんです。それからは誰にも言わなくなりました」