毎日病院に来てくれた彼女が妻に…小林悠、川崎フロンターレ加入前の秘話
1年前のJリーグアウォーズで妻・直子さんが語った言葉の重み
ケガをしても困難に直面しても…小林悠は妻と一緒に乗り越えてきた 【佐野美樹】
小林にとっては日々練習する慣れ親しんだ場所だが、ふたりの子どもにとっては絶好の遊び場になる。制止しようとする小林に構うことなく、こちらに向かって無邪気に走ってくるふたりを見て、1年前になるJリーグアウォーズの光景を思い出していた。
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「当日、連絡をもらったのですが、私は人前に出るのが得意ではないので、最初はどうしようか迷ったんです。それで主人のお義母さんにも相談したんですけど、そこは『行きなさい』と言ってもらったので(花束を)渡すことにしたんです。しかも、まさかあの場で『ひと言』と言われるとは思っていなかったので、主人に掛ける言葉も全く考えていなくて。だから、気の利いたセリフも言えなかったんですよね」
飾ることもなければ、繕うわけでもない。自然と出た言葉だったのだろう。直子さんは「一番近くでがんばっているのを見てきたので、その努力が報われてうれしいです」と声を掛けた。
その言葉は、決して順風満帆とは言えなかった小林のキャリアを紐解けば、紐解くほどに重みが増し、思いがこみ上げてくる。
「プロサッカー選手になりたい」夢はいつしかふたりの目標に
2017年Jリーグアウォーズではサプライズで妻、息子が登場 【写真:アフロスポーツ】
「初めて会ったときから、プロサッカー選手になりたいということは言っていたんですよね。私はそれほど大学サッカー事情に詳しくはなかったんですけど、彼が通っている拓殖大学が関東大学2部リーグに所属しているということは知っていました。だから最初は、プロになりたいと聞いても、どこか現実味があるようには思えなかったんです。でも、付き合うようになって、毎回のように彼の試合を見に行くようになると、本気でプロを目指していること、軽い気持ちでサッカーをやっているわけではないということが分かってきて、こっちも真剣に応援するようになったんですよね」
大学に入り、MFからFWにコンバートされた小林は、彼女の応援もあってか、徐々に頭角を現していく。まるで夫婦の関係性を示すかのように、照れる様子も見せずに小林が言った。
「初めて会ったときに偶然、夢の話になって、プロサッカー選手になりたいって語ったんです。でも、妻は『そうなんだぁ』くらいのリアクションで、全然、響かない(笑)。それも当たり前ですよね。大学でサッカーをやっているっていっても、それほど自分のことも知らなかっただろうし、しかも関東大学2部リーグだったし(苦笑)。それでも、付き合ってからは、本当に見に来られる試合は全部、見に来てくれたんですよね。それこそ一度、ご両親も応援に来てくれたことがあったんです。その試合で僕、ハットトリックしたんですけど、そのときはいいアピールになったな、なんて思いましたから(笑)」
もちろん、そのときは、結婚という二文字を考えていたわけではなかっただろう。だが、いつしか小林の夢は、ふたりの目標になっていった。だから、大学で栄養学を学んでいた直子さんは、自分が得た知識を小林にも話せる限り話した。
「大学ではスポーツ栄養学についての授業って、それほど多くはないんです。私自身も、その分野に就職しようと考えていたわけではなかったんですけど、少しでも彼のために活かせればいいなと、私自身のモチベーションになりましたよね。それに大学の授業で学んだことを主人に伝えると、すごく素直に聞いてくれたというか、興味を持ってくれて。何でも吸収しようとしてくれたんです」
モチベーションという言葉を使うところが、いかにもサッカー選手の妻らしい。だからこそ、大学3年生になり2部リーグとはいえ得点王に輝き、川崎から声が掛かったときには、家族は当然のこと、ふたりして喜んだ。