現場に任せた、岡田オーナーの思い
今治は「J3のカギ」にわずかに届かず

6連勝から一転、自力昇格がなくなった今治

「必昇」と書かれたシートを手に、入場する選手を迎える今治の地元ファン。誰もが「奇跡」を信じていた
「必昇」と書かれたシートを手に、入場する選手を迎える今治の地元ファン。誰もが「奇跡」を信じていた【宇都宮徹壱】

 日本代表のベネズエラ戦が行われた大分から、小倉と岡山で列車を乗り継いで丸亀でカマタマーレ讃岐のJ2最終節のゲームを取材し、それからさらに移動して今治に到着したのはJFL最終節前日の11月17日であった。こうした強行軍を強いられるのは、日本サッカーの上から下までがクライマックスを迎えているからにほかならない。前期・後期15節ずつ行われる今季のJFLも、いよいよ残り1節を残すのみ。すでにHonda FCの優勝と、ヴァンラーレ八戸の(来季のJ3昇格条件を満たす)4位以内が決まった今、一番の注目カードはFC今治対ホンダロックSCであろう。


 前回、今治を取材したのは10月14日のコバルトーレ女川戦。この試合に4−2で勝利した今治は、順位を6位に上げてわずかに昇格の可能性をつないだ。先のコラムで私は《次のホームゲームまでに勝ち点6を積み上げられれば、昇格をめぐる今治の戦いは最終節まで続くかもしれない。》と書いたが、実際は予想を超える展開となった。ラインメール青森戦(アウェー)に4−1、流経大ドラゴンズ龍ケ崎戦(アウェー)に7−0、東京武蔵野シティFC(ホーム)に3−0と、連勝を6に伸ばして昇格の条件である年間順位4位に浮上。しかし前節、MIOびわこ滋賀(アウェー)に1−2で敗れて、楽観ムードはまたたく間に暗転する。


 この結果、ソニー仙台FCに抜かれて今治は5位に転落。4位と5位との勝ち点差は1である。今治が逆転するためには、目前のホンダロック(14位)に勝利した上で、裏の試合でソニー仙台がFCマルヤス岡崎(13位)に負けるか引き分けることが条件となる。ちなみに岡崎がJFLに昇格した14年以降の対戦成績は、9戦してソニー仙台の4勝2分け3敗。ただしソニー仙台のホームに限れば、4戦して2勝1分け1敗となっている。今季はアウェーで1−2で敗れているが、過去4シーズンで岡崎に負け越したことがないことを考えると、ソニー仙台の優位は揺るぎそうにない。


 前節、滋賀に勝っていれば、いやせめて引き分けていれば──。今治の関係者の誰もがそう思ったことだろう。とはいえ、昇格の可能性はまだ残されている。他力ゆえに、もちろん条件は厳しい。逆転の可能性を裏付けるデータも乏しい。しかしまずは、目前のホンダロック戦に集中するほかないだろう。現在、リーグ下位に沈んでいるとはいえ、昨シーズンは8位(今治は6位)。過去3回の対戦では、今治の1勝2分けと意外と侮りがたい相手である。ゆめゆめ油断してはいけない。

今季最後の対戦相手、ホンダロックSCについて

試合前、今治のサポーター席に「乱入」したロック総統。「J3のカギ」を手に、恒例のアジ演説を行った
試合前、今治のサポーター席に「乱入」したロック総統。「J3のカギ」を手に、恒例のアジ演説を行った【宇都宮徹壱】

 そのホンダロック、1964年創部の歴史ある企業チームである。創部から41年後の2005年に初めてJFLに昇格。しかし2シーズンで九州リーグに降格してしまう。そして08年の全国地域リーグ(現・地域CL)の決勝ラウンドで3位となり、再びJFLに昇格。余談ながら、この時の「同期」はFC町田ゼルビアとV・ファーレン長崎、4位で涙をのんだのがレノファ山口FCである。以後、10シーズンにわたり全国リーグにとどまり続け、16年には史上最高位となる4位にまで上り詰めた。業績悪化で企業クラブが相次いでJFLから撤退する中、その風雪を耐え忍んでホンダロックの今がある。


 キックオフ1時間半前の11時30分、夢スタ(ありがとうサービス.夢スタジアム)に到着。「奇跡」を信じて、この日は4805人の観客と数多くのメディアが駆けつけた。一方、アウェーのホンダロックのサポーターも、人数こそ限られていたものの、真っ赤な大旗を持ち込んで気合十分。そしてこの日は、ホンダロック名物の「乱入」イベントも行われることになっていた。ホンダロックの名物サポーター、ロック総統がホーム側のサポーター席に登場し、「お前ら、本当にJリーグでやっていけるのか?」と説教めいた演説をするJFLの風物詩である。


 キックオフ50分前、機動戦士ガンダムのシャア・アズナブルのコスプレをしたロック総統が、打ち合わせ通りに「乱入」。お手製の「J3のカギ」を見せびらかしながら「お前らが喉から手が出るほど欲しがっていたものを持ってきてやったぞ! まあ、自力昇格の可能性はなくなったわけだが」とアジると、今治サポーターからブーイングが起こる。「東京の大きなスポンサーに依存していると、Jリーグに行ってから苦労するぞ!」という鋭い指摘に、さらに大きなブーイング。まさに、昭和のプロレスのノリである。最後はややグダグダになりながらも、夢スタ初の「乱入」は無事に終了した。


 実はロック総統の「乱入」は、JFLからJリーグに駆け上がっていくクラブに対する、彼なりのエールでもある。前日にJ1昇格を果たした松本山雅FCをはじめ、「JFLから上を目指す」クラブの旅立ちを、これまで何度も見送ってきた。果たして、この試合をもって今治は「J3のカギ」を手にすることができるのだろうか。それとも、来季もJFLからの出直しとなるのか。この日、配布された「必昇」と書かれたブルーのチラシでスタンドが埋め尽くされる中、緊張した面持ちで今治の選手たちが入場。そして13時、各会場同時にキックオフのホイッスルが鳴った。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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