今治と八戸、注目の対戦は痛み分けに 試合後の監督会見で感じた“違和感”

宇都宮徹壱

ファーストステージの行方を占う重要な一戦

今季前半戦の行方を占う一戦を前にした、今治の吉武監督(右)と八戸の葛野監督 【宇都宮徹壱】

 JFLは4月に入って第4節を消化した。まずは、ここまでの概要を確認しておこう。首位は昨シーズンのチャンピオン、Honda FCで4戦全勝の勝ち点12。以下、2位FC今治、3位FC大阪、4位東京武蔵野シティFC、5位奈良クラブ、6位ヴァンラーレ八戸と続く。2位の今治から6位の八戸までは、いずれも3勝1敗の勝ち点9で、得失点差での並び。興味深いのは、わずかな差でひしめき合う上位陣の中に、J3ラインセンスを持った3チーム(今治、奈良、八戸)が含まれていることだ。いずれも「今季こそはJ3昇格を」という意気込みがひしひしと感じられる。

 そんな中、4月8日に夢スタ(ありがとうサービス.夢スタジアム)で開催される今治対八戸は、今季ファーストステージの行方を占う意味で、非常に重要な一戦である。今治はJFL1年目だった昨シーズン、八戸とはファーストステージ(アウェー)に1−0で勝利するも、セカンドステージ(ホーム)では1−2と敗戦。年間通算順位では、八戸が5位で今治が6位と、どちらもJ3昇格の条件である年間4位には届かなかった。今治と八戸は、昨シーズンから続くJ3昇格のライバル同士。それだけでも十分に注目カードなのだが、個人的には今季から八戸の指揮を執る葛野昌宏監督にも注目している。

 葛野監督は現在42歳。登別大谷高校3年の時に高校選手権に出場し、大会優秀選手としてヨーロッパ遠征選抜メンバーに選ばれる(この時のメンバーは、川口能活、城彰二、奥大介など、そうそうたる顔ぶれであった)。卒業後、ベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)では出場機会に恵まれなかったものの、北信越リーグ所属だったアルビレックス新潟のJFL昇格に貢献したり、2003年のジヤトコ(当時JFL所属)の活動停止に立ち会ったりと、Jリーグ以下のカテゴリーで波乱のキャリアを積んできた。

 現役引退後、キャリアの最後にプレーをした佐川印刷SCのコーチを経て、14年に東北1部だったラインメール青森の監督に就任。翌15年に同クラブをJFLに昇格させると、16年には8位、17年には2位までチームを押し上げる。その手腕を買われて今季、青森とはダービー関係であった八戸の指揮官に招かれた。ちなみに、今治と青森の昨シーズンの対戦成績は、ホームで0−1、アウェーで2−2。さらに15年の全社(全国社会人サッカー選手権大会)では2回戦で対戦して、青森が1−0で勝利している。葛野監督の対今治戦の戦績は、3戦して2勝1分けの無敗。この今治戦に向けて、並々ならぬ意気込みがあるはずだ。

相手に先制され、フィニッシュに精度を欠く今治

強風が吹く中、今治はコイントスで風上を選択。前半で試合を優位に展開することを目指す 【宇都宮徹壱】

 試合当日の今治は晴天、しかし風が強く体感温度はかなり低く感じられた。キックオフ1時間前、配布されたスターティングイレブンを確認する。まず目についたのが、GKがマチェイ・クラコビャック(クラッキ)から岡田慎司に、左サイドバック(SB)が中野圭から西埜植颯斗に代わっていたことだ。GKについては、テゲバジャーロ宮崎戦での敗戦以降から岡田がスタメンになっているため、ソニー仙台戦での良い流れを持続させたいという思いがあるのだろう。左SBについては、理由は不明。もしかしたら、序列に変化があったのかもしれない。

 あらためて、ここまでの今治の戦いを振り返っておきたい。ホーム開幕戦でのヴェルスパ大分戦は、前半こそ低調だったものの、相手に先制されてから目を覚ましたかのように怒とうの攻撃力を見せて、終わってみれば4−1の圧勝。続くヴィアティン三重とのアウェー戦も、前半に2点リードされながらも、ポゼッションスタイルを変えずに辛抱強く戦い、劇的な逆転勝利(3−2)を収めることができた。ところが第3節の宮崎戦では、前半25分に先制を許すと、そこから5バックで守る宮崎のディフェンスを崩しきれず、今季初の敗戦を喫することとなってしまった。

 前節のアウェーのソニー仙台戦では4−1と快勝したものの、やはり昇格1年目の宮崎にホームで敗れた一戦が気になるところ。チームを率いる石崎信弘監督の策にまんまとハマったとも言えるが、今季の今治は相手に先制を許す試合が多く、チャンスを多く作るもののフィニッシュの精度を欠くというネガティブな傾向が見られる。吉武博文監督も、その点は十分に認識していることだろう。今治のトレーニングをよく見学に行くという、あるサポーターからの情報によると、この八戸戦を前に「吉武監督にしては珍しく、シュート練習を徹底的にやっていました」とのことである。

 そんな今治にとっての朗報は、前日の7日に行われた試合で、ここまで全勝だったHonda FCが、ソニー仙台に2−2で引き分けたことだろう。ここで勝利すれば、首位との差は一気に縮まる。しかし冒頭で述べたとおり、相手は昇格のライバルである八戸であり、その指揮官は青森時代に今治を苦しめてきた葛野監督。当然ながら対策を十分に練って、夢スタに乗り込んでくることだろう。迎える今治はこの日、前半のエンドはいつもとは逆、メーンスタンドから見て右を選んだ。風上に立つことで、前半で試合を優位に進める──。それが、この日の今治のゲームプランだったのは間違いない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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