負けられない戦いが続く今治と女川 J3昇格とJFL残留、それぞれの思い
J3に昇格できるかどうかの正念場
選手入場に合わせてゲートフラッグを掲げる今治のサポーター。応援のスタイルもかなり洗練されてきた 【宇都宮徹壱】
試合当日は快晴。新潟に比べてぐっと気温が上昇する中、ハロウィーンが近いこともあって仮装したサポーターの姿を多く見かける。メディアセンターで作業をしていると、岡田武史オーナーが忙しそうに駆けずり回っていた。あいさつすると「へえ、新潟から来たの。あ、パナマ戦か。(日本代表の試合は)忙しいから全然見ていないんだ。どうでした?」という意外な反応。JFA(日本サッカー協会)の副会長を辞して以降、すっかりクラブオーナーに専念している様子がうかがえる。当然だろう。今治は現在、今季でのJ3昇格ができるかどうかの正念場である。
あらためて今治の状況を確認しておこう。前回、ホームゲームを取材したのは、7月22日(セカンドステージ第3節)の奈良クラブ戦。J3を目指すライバルとの一戦は、1−0で今治が制した。この結果、今治はセカンドステージでは3位に、年間順位でも5位に浮上。今後の逆襲が期待される位置につけることができた。しかしその後、FCマルヤス岡崎(0−1)、Honda FC(1−4)、ヴァンラーレ八戸(0−1)に3連敗。第9節を終えたところで、セカンドステージと年間で、いずれも7位に後退することとなった。
J3昇格のための成績面の条件は、セカンドステージ優勝、もしくは年間で4位以内。とはいえ、ステージ優勝は絶望的(首位Hondaに13ポイント差)。年間では4位と3ポイント差なので、こちらに集中するしかない状況だ。問題は、今季の今治がなかなか上位陣に勝てていないこと。残り6試合ではMIOびわこ滋賀(年間5位)、東京武蔵野シティFC(同6位)との対戦が該当する。厳しい戦いが続く中、久々のホームゲームで迎える相手は、最下位に沈む女川。ここは順当に勝利して、はずみを付けたいところだろう。
震災を乗り越え、JFL残留を目指す女川
昨年の地域CLに優勝して初の全国リーグを戦う女川。今季は最下位に沈むも、JFL残留を懸けた戦いは続く 【宇都宮徹壱】
女川を語る上で絶対に欠かせないのが、やはり11年の東日本大震災である。市内は津波による甚大な被害に見舞われ、当時の人口1万人のうち、死者・行方不明者は872人。人口に対して最も人的被害(死者・行方不明者)の比率が高かった自治体は、実は女川町であった。クラブ関係者いわく「とてもサッカーができる環境ではなかった」ため、この年の東北リーグは活動を断念して、選手たちは地域の被災者支援活動に従事。翌12年より活動を再開し、6年をかけて東北1部優勝、さらには地域CL優勝という快挙を達成した。
実質的に「JFLへの登竜門」となっている地域CLにあって、昨年の女川は極めて新鮮かつ鮮烈な印象を見る者に与えた。プロ経験を持つ選手は皆無の雑草軍団ながら(あるいはそれゆえに)、昇格のプレッシャーを全く感じさせない伸びやかなプレーを随所に見せて、優勝候補と目されていたテゲバジャーロ宮崎とVONDS市原FCにPK戦勝利。しかも志向するスタイルは、FCバルセロナのようなポゼッションサッカーである。震災の記憶が今も深く刻まれる、人口わずか6700人の小さな港町から、全国を戦うクラブが誕生したこと。そのこと自体、1つの奇跡と言ってよいだろう。
JFL1年目を迎えるにあたり、監督には初のプロ指導者となる村田達哉氏が就任。しかし依然としてプロ選手は皆無で、練習は仕事が終わった夜に限られている。地域リーグの無欲のチャレンジャーも、さすがにJFLが舞台となると勝たせてもらえない。ここまで4勝3分け17敗で、得失点差はマイナス41の最下位。それでもJFLから1チームがJ3に昇格すれば(今のところ八戸が有力)、1つ順位を上げることで何とか残留できる。昇格を目指す今治と、残留を目指す女川。ベクトルこそ異なるものの、いずれにとっても最終節まで負けられない試合が続く。