クラウン逃げて配当2(ディ)バイダ 「競馬巴投げ!第172回」1万円馬券勝負
小林慎一郎助手の宝塚表彰台が嬉しかった
[番外写真1]宝塚記念の表彰後、笑顔の小林慎一郎調教助手 【写真:乗峯栄一】
「ぼくな、払戻所という所もいっぺん見てみたい」
[番外写真2]少年時代の小林慎一郎助手 【写真:乗峯栄一】
コバシンは当時中2、既に翌年の競馬学校受験を決めていた。もし競馬学校に入れば競馬を一般席から見ることは多分一生ない。といって、調教助手の父親がスタンドに連れていくことも出来ない。
「うちの子、一度競馬場スタンドに連れていってくれないか」と頼まれた。簡単なことだ。簡単だがしかし、微妙な神経戦も起きた。
コバシンは田原成貴の大ファンだ(小林家にも田原成貴はときどき訪れていた)。
「田原さんの騎乗姿を見てみたい」というのがコバシンが競馬場スタンドに来る最大の眼目である。「乗峯おじちゃんの馬券買う姿を見てみたい」ではない。ここに最大の齟齬があった。
桜花賞日の混雑した阪神で5Rあたりから一緒に行動する。500万レースでも当然ながらぼくはマークカードのあちこちを塗りたくる。中2のコバシンは頬杖ついてそれを見て「けっこう買うんやね」と言う。
え?「わあ、おじちゃんはなあ、歩く“競馬エンゲル係数破壊機”って言われてるんや!」などと意味不明の喚きを発しながら窓口に走る。
パドックに一緒にいると、目の前の馬を見て「飛節の湾曲角度が深すぎる」とか「頭絡からハミへのバインディングが甘い」とか、「きみはナニ中学生や!」とツッコみたくなる呟きを小声で言う。コバシンは厩舎にもよく行っていたし、数年間トレセン乗馬スクールにも通っていた。
でも10Rあたりでは子供らしい表情も出す。
こっちの顔を見上げて「ぼくな、払戻所という所もいっぺん見てみたい」と言う。
問題はここだ。確かに5Rから10Rまで一度も払戻所には行ってない。しかし「払戻所という施設を見たい」という純粋見学意図に取れなくもない。でも今どきの中学生がそんなに純真か?「おっさん、たまには払戻所にも行ったらどうや!」とケンカ売ってるのかもしれない。疑心暗鬼がむくむく沸き上がる。