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ミゲル・カブレラ以来の「三冠王」戴冠へ 不振を脱した大谷翔平は“インハイ攻め”をどう克服するのか

丹羽政善

6月26日に2戦連続となる先頭打者アーチ(25号)を放った大谷翔平 【Photo by Justin Casterline/Getty Images】

 大谷翔平(ドジャース)が初回に先制本塁打を放ち、四回の3打席目に勝ち越しタイムリーを放った6月25日(現地時間、以下同)のホワイトソックス戦。

 しかし、六回の4打席目は、左のタナー・バンクスと対戦すると、インハイのシンカーを振って三振。右のジョン・ブレビアと対戦した八回の5打席目も、1−2と追い込まれてからの4球目、インハイの4シームに空振り三振を喫した。

 一時の不振を脱し、再び三冠王が視界に入る大谷だが、この「インハイ」が今後、どんな意味を持つのか。

 まずは三冠王との距離感だが、こんな状況となっている。

ナ・リーグ打率、本塁打、打点5傑

6月26日試合終了時点 【筆者作成】

 打点トップは、マルセル・オズナ(ブレーブス)とアレク・ボーム(フィリーズ)が64打点で並んでいるが、最終的には打率が行方を分けるのではないか。

 というのも、彼らはここまで、ともにキャリア平均を超える得点圏打率を残している。この数字が今後、下がることはあっても上がるとは考えにくいので、大幅に打点が伸びるとは思えない。実際、2人の得点圏打率は徐々に下がっている。打点の伸びも少ない。

大谷、ボーム、オズナの得点圏打率

6月26日試合終了時点 【筆者作成】

 一方で大谷はここまで得点圏打率が.244で、キャリア平均を下回る。さすがにこのままでは終わらないと思われるので、逆に打点が伸びる要素はオズナらよりも大きい。そもそも、本塁打が出始めたので必然的に打点が伴う。

 ということで、本塁打と打点に関しては、さほど心配はいらないはず。ただ、打率に関しては、過去2年、ア・リーグとナ・リーグでそれぞれ首位打者を獲得したルイス・アラエス(パドレス)も1分2厘差の3位につけており、やはり三冠王への一番のハードルとなりうる。

 そこで興味深いのが、「インハイ」ということになる。

 4月、ショーン・マネイア(メッツ)が、大谷の攻略法を教えてくれた。
 そこでは、インハイが配球の軸になるとのことだったが、開幕から3ヶ月。それはより顕著となり、分かりやすい結果が出ている。なんと、インハイの打率が.120にとどまっているのだ。昨季は.370、一昨年は.333とむしろ得意としてきたコースなのに。特に右投手に対しては.063。もちろん、ストライクゾーンの中では一番低い。

6月26日試合終了時点 【参照:Baseball Savant】

 インハイの打率はこの1週間だけでも徐々に下がっているが、このコースに今後、大谷はどう対応していくのか。今回、打率が1割を切っている対右投手に絞って話を進めていくが、右投手がインハイを中心に攻めてくるのは、打ち取るためというよりむしろ、早いカウントで投げてファールなどを打たせ、有利なカウントで勝負をしたい――という思惑が透ける。

 相手がインハイに投げるのは3球目までが圧倒的に多く、インハイ全体の67.2%。ファールが多く、打球が前に飛んでもヒットになる確率は低い。ストライクを先行させたい、あわよくば早いカウントで仕留めたい――そう考える相手にとっては、リスクの低い便利なコースなのである。しかも、やや内側に外れてもスイングする確率が高いので、必ずしもゾーン内に投げる必要もない。

以下、それぞれの内訳だ。

インハイ(ストライクゾーン)スイング率:85.7%    
安打1(本塁打)
空振り7
ファール17
内野ゴロ3
外野フライ8

インハイ(ボールゾーン)スイング率:46.7%
安打2
空振り3
ファール20
内野ゴロ3
外野フライ4

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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