パリ五輪、OAなし“ベストの18名”決定に至る特殊事情 海外組多数の副作用も「日本サッカーの明るさ」

川端暁彦

五輪に臨む18名の選手を発表する大岩剛監督(左)と山本昌邦ナショナルチームダイレクター 【写真は共同】

大岩監督の“笑み”

「このチームを結成してから、最初に出したリストの通りに選手を呼べたことは一度もないんじゃないかな」

 少しシニカルな笑みを浮かべながら、U-23日本代表・大岩剛監督はそう語っていた。パリ五輪に臨む男子サッカー日本代表メンバー発表の8日前のことである。

 今度のメンバーも監督の希望するリストは通らないだろうという達観すら感じさせる言葉だった。

 そんな見通しの通り、7月3日のメンバー発表に際して公開された18名のリストが、監督の「当初希望」に沿うものでなかったのは明らかだ。

 3名まで認められるオーバーエイジ選手は0名で、海外組の相当数も招集外に。また、移籍を控える国内組についても選抜できなかった選手がいた。まさに「さまざまな制限がある中での選考であることの難しさ」を感じさせる構成となった。

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五輪男子サッカーの歴史的経緯

日本が28年ぶりに出場したアトランタ五輪、「オーバーエイジ枠」が新設された 【写真:岡沢克郎/アフロ】

 困難なメンバー選考の背景にあるのは、第一に五輪におけるサッカー競技に対するFIFA(国際サッカー連盟)の姿勢の変化だ。

 五輪のサッカー競技は古くから採用されているものの、当初は五輪自体がプロ選手の出場が禁じられた「アマチュア大会」だった。このため、いち早くプロ化が進み、ワールドカップ(W杯)という単独競技で権威ある大会を成立させたサッカー界にとって、五輪は世界一を争うようなタイトルではなくなっていた。必然、「アマチュア」を自称したソビエト連邦を筆頭とする東側諸国に五輪のメダルは寡占されることとなる。

 それがスポーツ自体のプロ化の波やソ連崩壊へつながる東側諸国の衰退を背景として変化することになる。1984年のロサンゼルス五輪で大会でのプロ解禁の方向へ舵が切られ、サッカーにもその波が及ぶことになる。

 当初、FIFAはW杯やその予選に出場している選手の出場を制限する措置をとり、W杯の権威を守ることを企図したが、1992年のバルセロナ五輪からは「U-23」のカテゴリーでの大会実施を決断。現在の大会に通じる方向性が打ち出されることとなった。

 これは余談だが、ロサンゼルス五輪以降の流れは、五輪を頂点とするアマチュア主義に固執していた日本サッカー界がプロ化の決断を下すことにもつながっていく。もし五輪がアマチュア限定の大会のままであれば、1993年時点でのJリーグ誕生は困難だったとされ、今日の日本サッカー界も存在しなかったであろうから、やはり日本という国における五輪という大会の重みをあらためて考えさせられる。

 日本が中田英寿氏らを擁して28年ぶりの出場を果たすこととなる1996年のアトランタ五輪からは「オーバーエイジ」の新ルールが登場。これは最高の選手の参加を求めて出場選手の制限撤廃を望む五輪側とFIFAによる妥協の産物で、この条件を呑む代わりの条件としてFIFAは当時まだまだマイナーだった女子サッカーを五輪競技に採用させたと言われる。

 今や女子サッカーも世界的な人気が高まり、単独種目での女子W杯への注目度も飛躍的に増した。FIFAが五輪に頼るモチベーションがなくなってしまったのもあれば、クラブチームの権力が以前とは比べものにならないほど強くなったのもあるだろう。

 かつては国際Aマッチ同様の「縛り」があったU-23選手に対する各国協会の招集権限も失われ、「呼びたい選手がいたら勝手にクラブと相談してください」というスタンスに。結果、協会が「一人ずつ地道に交渉していくしかない」(山本昌邦ナショナルチームダイレクター)という現状になっている。

 選手招集が困難なのは日本だけでなく各国がほぼ同じ。3月に来日して日本と対戦したマリやウクライナの監督がそろって、「本大会で誰を呼べるかはわからない」と回答していたのは象徴的だった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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