キャリア第2章の活躍を予感させる大坂なおみ 逆転負けを喫した全仏で完全復活を“2度”確信

秋山英宏

妊娠・出産による1年以上のブランクから今年の1月に復帰した大坂。全仏では復活を予感させるプレーを見せた 【Photo by Clive Brunskill/Getty Images】

苦手とするクレーで女王を追い詰める

 2024年初夏のパリ、全仏オープンが開催されたローランギャロスで、大坂なおみの復調、復活を確信した。

 最初にそれを実感したのは、第1シードのイガ・シフィオンテク(ポーランド)との2回戦だった。セットカウント1-1から、最終セット5-2と先行、5-3からのサービスゲームでマッチポイントを握ったが、これを逃し、逆転を許して敗れた試合だ。6-7、6-1、5-7の大接戦だった。

 両者は対戦の時点でともに四大大会で4度の優勝経験があった。大坂が世界ランキング134位、公傷制度による出場でノーシードだったため、2回戦で強豪同士の激突が実現した。大会はシフィオンテクの5つ目の四大大会タイトル獲得で幕を閉じたが、大坂からの勝利が最大の難関であり、転換点であったのは確かだ。

 大坂にとって、レッドクレー(赤土)のコートで行われる全仏は、四大大会の中で最もタイトルが遠い大会と思われていた。攻撃力に加え、忍耐力が問われる。球脚の遅いコートでは対戦相手に強打を拾われ、もう1本、さらに1本とベストのショットを続ける必要があるからだ。また、クレー特有のスライド、つまり最後の数歩で滑りながら打点に入り、足裏が地面をグリップした瞬間にボールをとらえるフットワークが、ハードコートで育った大坂は苦手だった。

「今回のクレーコート・シーズンで私が学ぶべきことは、すべてを素直に受け入れるということだった。私はポイントやゲームを失うと、自分を責めてしまうタイプだけれど、そうしたポイントから学び、すべてをチャンスととらえることが、今季、これまでに得た最大の教訓だと思う。それに、ほかの選手のプレーや動きを見ることも。クレーコートはダンスに似ていると思う。彼らがスライドするのを見るのは本当に楽しいの」

 大会開幕前の大坂のコメントだ。完璧主義で、勝利への執着心が強い大坂だが、これは学びの過程、向上するための好機――そんな謙虚な心構えで臨んだことが、2回戦での素晴らしいプレーにつながったのは間違いない。

フィジカルはすでに全盛期レベル

女王・シフィオンテクをあと一歩のところまで追いつめた大坂。フィジカルの充実ぶりをうかがわせる 【Photo by Robert Prange/Getty Images】

 シフィオンテク戦では大坂自身が「ダンス」を踊っていた。スライドも無難にこなした。ぎこちなさが消え、赤土を自由に舞った。フットワークの習熟度が上がったことに加え、土台となるフィジカルの充実ぶりが見て取れた。試合のあと、大坂はこう話している。

「今、一番取り組んでいるのはフィジカル面。かなり動けたと思う。これからもっとよくなるといいけれど。復帰するにあたって取り組んだメインのポイントなんです」

 案外、クレーコート用のフットワークなどというのは些末な部分なのかもしれない。もともと動きはシャープでダイナミックだ。22年の全豪では、大会が提携する専門家チームがビッグデータから選手の「動き」を分析、報道陣に提供した。

 その中で大坂のスプリント能力の高さが証明された。コートの横幅の半分の距離を高速で移動した回数が群を抜いて多かったのだ。強打で知られる大坂だが、爆発的なスピードを持った選手でもあることが数字で裏付けられた。妊娠、出産によるブランクはあったが、努力の甲斐あって全盛時の動きを取り戻したと見ていいのではないか。

 技術的には、もとより不安要素はない。フィジカルが充実し、「すべてを素直に受け入れる」という心構えで、すなわちメンタルを整えて試合に臨めば、これくらいのパフォーマンスを発揮できる。シフィオンテクとの3セットで証明したのは、その事実だ。134位のランキングでは到底あらわせない、大坂の現在地が明らかになった。

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著者プロフィール

テニスライターとして雑誌、新聞、通信社で執筆。国内外の大会を現地で取材する。四大大会初取材は1989年ウィンブルドン。『頂点への道』(文藝春秋)は錦織圭との共著。日本テニス協会の委嘱で広報部副部長を務める。

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