瀬戸際で踏みとどまったバスケ日本代表 連勝の背景と、W杯出場への道のりは?

大島和人

八村塁の加入でパワーアップした日本は、土壇場で2連勝を収め、W杯2次予選進出を決めた 【Getty Images】

 バスケットボール男子日本代表は、7月2日に行われたFIBAワールドカップ(W杯)2019のアジア地区1次予選の最終戦でチャイニーズ・タイペイを108−68で下し、2次予選進出を決めた。男子のW杯は今大会から1次予選、2次予選を一部の国のリーグ戦と重なる日程で行うようになり、日本は選手の招集、調整の両面で苦しんだ。

 しかし第5戦のオーストラリア、第6戦のチャイニーズ・タイペイと連勝したことにより、チームは瀬戸際で踏みとどまった。このコラムではBリーグ創設後の波に乗り切れていなかった代表の苦闘と、それを乗り越えた背景、そしてW杯出場に至る予選の全容を説明する。

八村や渡邊を招集できない制約

 国際バスケットボール連盟(FIBA)は国際サッカー連盟(FIFA)とよく似ている。どちらも本部がスイスにある統括組織だ。

 FIBAがFIFAに近づこうとしている部分がある。バスケのW杯は19年の中国大会から予選を短期集中で行うセントラル開催でなく、「ホーム&アウェー」の長期シリーズに切り替えた。男子のW杯が五輪予選を兼ねる仕組みで、日本が戦い終えたアジア1次予選は東京五輪に続く道でもある。

 一方でFIBAにはFIFAほどのパワーがない。FIFAは全世界のリーグを完全にコントロールし、「国際Aマッチデー」になればクラブは選手を代表チームに送り出す。しかしFIBAはNBA、ユーロリーグといった大組織をコントロールし切れておらず、招集義務も形骸化している。

 W杯や五輪の本大会はシーズンオフの開催となり、NBAのスター選手も参加する。しかし、ホーム&アウェーで行われる予選シリーズは大半がNBAのリーグ戦と同時期。米国代表は今回の1次予選をGリーグ(NBAのマイナーリーグ)に所属する選手で戦った。

 その制約はNCAA(全米大学体育協会)の所属チームも変わらない。大学生はシーズン外でも、成績などの問題で学校を離れることが認められない可能性もある。NCAAはヨーロッパやアジアのプロチームと同等以上のレベルにあり、そこで活躍している八村塁(ゴンザガ大)や渡邊雄太(ジョージワシントン大卒)は明らかに代表の主力を担うレベル。ただしNCAA→NBAという彼らの夢も、日本バスケにとってW杯や五輪と同じく重要なチャレンジだ。

 八村は大学2年のシーズンが終わり、ようやく帰国が可能になった。渡邊はNBA入りを懸けて6月末からNBAサマーリーグに参加し、まだW杯予選に登場していない。

4連敗という最悪のスタート

 彼らの不参加もあり、日本は1次予選で0勝4敗という最悪のスタートとなった。男子W杯は1次予選の参加が16チーム。日本はグループBに入りオーストラリア、フィリピン、チャイニーズ・タイペイと同組だった。FIBAの世界ランキング(以下18年2月末時点)を見ると、オーストラリアが10位、フィリピンが30位、日本が48位、チャイニーズ・タイペイが55位となっている。「4分の3」が2次予選に進む広き門とはいえ、突破の難しさは明らかだった。

 1次予選は「Window1」「Window2」「Window3」に分けて、ホーム&アウェーで2試合ずつ行われた。日本は11月24日のフィリピン戦(ホーム)を71−77で落とし、27日のオーストラリア戦(アウェー)は58−82と大敗。Window2は馬場雄大、富樫勇樹を負傷で欠き、2月22日のチャイニーズ・タイペイ戦(ホーム)を69−70で落とす。このグループでもっとも「勝ち目はある」と思われた相手に、ホームでの痛恨の敗戦だった。25日のフィリピン戦も84−89で敗れ、日本はどん底に落ちる。4試合中3試合は一桁点差の接戦で、主力の不在もあったとはいえ、極めて重い4敗だった。

 この結果により、東京五輪の推薦出場権を得られなくなる危惧がファンの間に広まった。また一般のスポーツファンが見たら「1次予選全敗」の情報は日本バスケ、Bリーグ全体のイメージダウンにつながる。実際に「男子はアジア最弱レベルなのか」という反応は何度も目にした。

 今回のアジア1次予選はFIBAアジア、FIBAオセアニアの合計65チームのうち16チームが参加している。つまり「アジア・オセアニアの上位4分の1」が出られる大会なのだが、それは慰めにならない。15年のアジアカップで18年ぶりにアジアのベスト4に入った日本は、さらなる右肩上がりを期待して臨んだ大会で、想定外の苦戦を強いられていた。

強まるJBA技術委員長への「風当り」

JBA技術委員長・東野への「風当り」は当初より強かった 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 16年5月から日本バスケットボール協会(JBA)の技術委員長を務めているのが東野智弥だ。浜松・東三河フェニックス(現・三遠ネオフェニックス)のヘッドコーチ(HC)から、JBAに移った。大河正明Bリーグチェアマン(当時はJBA事務総長も兼務)は、以前の取材で国際性、コーチとしての実績、若さなどを彼の起用理由に挙げていた。とはいえ、決して元一流選手や“大物”ではない東野への「風当り」は当初より強かったと聞く。

 東野の情熱や国際的な人脈があったからこそ、アルゼンチンの名伯楽フリオ・ラマス現日本代表HCの招へいが可能になった。彼の精力的な視察、折衝があるからこそ「米国育ちの日本人選手」のリサーチも進んでいる。東野は以前「日本ラグビー協会にアプライ(帰化申請)の方法を教わっている」と述べており、JBAがチャレンジしていなかった領域に踏み込んでいるのは間違いなく彼のすごみだ。

 東野は仮に日本が1次予選で敗退した場合も「絶対続けてやると思っていました」と口にする。2020年の東京五輪にとどまらない中長期プランが彼のミッションで、強い覚悟があったのだろう。とはいえ仮に代表がこのタイミングで敗退したら、彼の求心力は下がり、プロジェクトにも悪影響が出たに違いない。東野も「崖っぷちでしたし、どれだけプレッシャーがあったかというのは言えないくらい」と自身への重圧を述べる。しかし日本代表と東野は土壇場で踏みとどまった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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