今シーズンの女子短距離は混戦模様 やり投の呂会会は大阪で世界トップ狙う

K Ken 中村

女子短距離ではコートジボワールのマリー・ジョゼ・タ・ルー(左)とミュリエル・アウレ(右)らがトップの座を争っている 【Getty Images】

 陸上競技において今シーズンは、五輪も世界選手権もないが、多くの地域選手権大会が行われる年である。8月には欧州選手権とアジア大会が予定されているが、すでに4月にはコモンウェルスゲームズ(英連邦大会)が行われており、シーズン序盤ながらすでにハイレベルな記録が生まれている。

 今回は5月20日に開催されるゴールデングランプリ2018大阪(大阪・ヤンマースタジアム長居)直前の陸上界を展望する。

中距離はセメンヤ独壇場だが……

800m、1500mの中距離ではセメンヤが圧倒的な強さを見せているが…… 【Getty Images】

 女子短距離では、2016年リオデジャネイロ五輪王者のエレイン・トンプソン(ジャマイカ)の調子が良くない。3月の世界室内選手権(イギリス・バーミンガム)の60mでは4位、英連邦大会の200mでも4位、そしてダイヤモンドリーグ・ドーハの100mでも3位に終わっている。故に今季の100mは混戦状態と推測される。コートジボワールのマリー・ジョゼ・タ・ルーとミュリエル・アウレ、ナイジェリアのブレシング・オカグバレ、そしてトリニダード・トバゴのミシェル・リー・アイが好調だ。アウレは世界室内の60mを制し、アイは英連邦大会を制した。ダイヤモンドリーグ・ドーハではロンドン世界選手権のダブル銀メダリストであるタ・ルーが今季最速の10秒85で優勝、オカグバレが10秒90で2位に入っている。今季いまだ10秒台では走っていないが、ダフネ・シパーズ(オランダ)とトリ・ボウイ(米国)もこの争いに加わる、と期待される。

 200mではリオ五輪400m金メダリストのショーナ・ミラー・ウイボー(バハマ)が好調だ。今季は200mに集中するというミラー・ウイボーは英連邦大会を大会記録の22秒09で制し、ダイヤモンドリーグ・上海でも22秒06で優勝している。一方、今季最速のタイム22秒04を記録しているのは、100mでも今季2位のタイムをたたき出しているオカグバレだ。2人の対決が待たれる。

 中距離はキャスター・セメンヤ(南アフリカ)の独壇場になりつつある。得意の800mでは今季4回走って全レースで2分を切っており、1500mでも英連邦大会とダイヤモンドリーグ・ドーハで圧勝した。

 しかし、その彼女の周囲が最近騒がしくなっている。09年のベルリン世界選手権で優勝して以来「セメンヤは本当に女性だろうか?」と疑いの目で見られていたが、4月下旬に国際陸上競技連盟(IAAF)は血中テストステロンが異常に高い中距離女性選手はそのレベルを下げなければレースに参加できないと発表した。血中テストステロンが異常に高い中距離ランナーのセメンヤを狙い撃ちにした決定と非難する人もいる。

10年前のディババの記録更新は? 400mHで米国新星が登場

18歳のシドニー・マクラフリンは世界ジュニア記録を更新。さらなる記録更新に期待がかかる 【Getty Images】

 5000mの世界記録はティルネシュ・ディババ(エチオピア)が08年6月に記録した14分11秒15だ。15年からゲンゼベ・ディババ、アルマズ・アヤナのエチオピア勢とケニアのヘレン・オビリが世界記録更新に何度も挑戦しているが、ティルネシュの世界記録は来月で10周年の記念日を迎える。今年も3人の世界記録挑戦から眼が離せない。

 3000m障害も世界記録更新の可能性が高い種目である。世界記録保持者のルース・ジェベト(バーレーン)がさらに世界記録を更新する可能性ももちろんあるが、セルフィン・チェスポル、ベアトリス・チェプコエチらの“8分台ランナー”、そして8分台目前のヒュビン・キエンらのケニア勢にも世界記録更新の可能性がある。この種目でもう一人注目の選手は世界チャンピオンのエマ・コバーン(米国)。彼女も8分台までもう一歩、ロンドンでの走りはまぐれではなかったことを示したいところだ。

 100mHはリオ五輪でメダルを独占した米国勢が今年も強い。今季リスト上位の選手はジャズミン・カマチョ・クイン(プエルトリコ)を除いてすべて米国選手だ。五輪金メダリストのブリアナ・マクニール(旧姓ローリンズ)、シェリカ・ネルヴィス、そして世界記録保持者のケンドラ・ハリソンが好調だ。その米国勢の一角を崩すと期待されるのが、前述のクインと昨年世界チャンピオンに返り咲いたサリー・ピアソン(オーストラリア)。今季は故障で英連邦大会欠場を余儀なくされたが、今後の動向が気になるところだ。

 400mHは今注目の種目。何故なら18歳のシドニー・マクラフリン(米国)がノックスビルのレースで52秒75の世界ジュニア記録を打ち立てたからである。今季2度目の世界ジュニア記録だ。それだけではない。これは歴代9位の突出した記録で、ジュニアで54秒4より速く走った選手はほかにいない。世界ユースチャンピオンのマクラフリンには将来52秒47の米国記録だけでなく、15年前に樹立された52秒34の世界記録更新の期待がかかる。

棒高跳は2強にロンドン五輪女王が加わる構図に

12年五輪金メダリストのジェニファー・サーが復調。ステファニディとモリスの2強に加わる構図となった 【Getty Images】

 棒高跳ではこの2年エカテリニ・ステファニディ(ギリシャ)対サンディ・モリス(米国)の時代が続いていたが、今年は12年五輪金メダリストのジェニファー・サー(米国)も好調だ。一方、リオ五輪とロンドン世界選手権を制して、向かうところ敵なしの感があったステファニディのエンジンの掛かりが今年は遅い。リスト上位はサーとモリスの米国勢が占めている。今年はステファニディ対モリスにサーが加わる構図になりそうだ。

 円盤投では五輪と世界選手権を2回制したサンドラ・ペルコヴィッチ(クロアチア)の天下が続きそうだ。現在のところ上位3位までペルコヴィッチの記録だ。4位のダニ・スティーヴンス(旧姓サミュエルス)が68m26で英連邦大会を制したが、ダイヤモンドリーグ・ドーハでは5位に沈んだ。ペルコヴィッチの優位は揺るぎそうにない。

 やり投ではグローバル選手権だけでなく、地域大会でも一度もメダルを獲得したことがないキャサリン・ミッチェル(オーストラリア)が今季はオセアニア記録を連発し、英連邦大会も68m92のオセアニア記録で制した。彼女に続くのが、世界選手権で銀と銅メダルを獲得している呂会会(中国)だ。今季ベストはダイヤモンドリーグ・上海での優勝記録66m85だが、ミッチェルの今季ベストとは2m以上の差がある。ゴールデンGP大阪でミッチェルと並ぶような距離を投げられるだろうか、期待が高まる。
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著者プロフィール

三重県生まれ。カリフォルニア大学大学院物理学部博士課程修了。ATFS(世界陸上競技統計者協会)会員。IAAF(国際陸上競技連盟)出版物、Osaka2007、「陸上競技マガジン」「月刊陸上競技」などの媒体において日英両語で精力的な執筆活動の傍ら「Track and Field News」「Athletics International」「Running Stats」など欧米雑誌の通信員も務める。06年世界クロカン福岡大会報道部を経て、07年大阪世界陸上プレス・チーフ代理を務める。15回の世界陸上、8回の欧州選手権などメジャー大会に神出鬼没。

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