シーズン序盤から好記録続出の陸上界 男子短距離は「ポスト・ボルト」に注目

K Ken 中村

世界室内選手権60mを制したコールマン。「ポスト・ボルト」の筆頭でもある 【Getty Images】

 陸上競技において今シーズンは、五輪も世界選手権もないが、多くの地域選手権大会が行われる年である。8月には欧州選手権(ドイツ・ベルリン)とアジア大会(インドネシア・ジャカルタ)が予定されているが、すでに4月にはコモンウェルスゲームズ(英連邦大会/オーストラリア・ゴールドコースト)が行われており、シーズン序盤ながらすでにハイレベルな記録が生まれている。

 今回は5月20日に開催されるゴールデングランプリ2018大阪(大阪・ヤンマースタジアム長居)直前の陸上界を展望する。

100mは三つどもえのトップ争い 日本人母を持つ米国期待の新人

400mでは日本人の母を持つ20歳のマイケル・ノーマンが44秒52の室内最高記録を更新した 【Getty Images】

 男子短距離では、昨年の100m世界チャンピオン、ジャスティン・ガトリン(米国)が36歳ながら4月に10秒05を記録した。しかし、5月のダイヤモンドリーグ・上海大会では10秒20で7位に沈んでいる。今年もゴールデングランプリ大阪に参加するが、彼の真価が問われる大会となるだろう。

 今年は「ポスト・ボルト」最初のシーズンだ。次の世代にバトン・パスが行われる年でもある。

 後継者として期待されるのは、3月に行われた世界室内選手権(イギリス・バーミンガム)の60m金メダリストのクリスチャン・コールマン(米国)、英連邦大会を制したアカニ・シンビネ(南アフリカ)、そして16年リオデジャネイロ五輪で3つのメダルを獲得したアンドレ・ドグラス(カナダ)の3人だ。

 コールマンは今季いまだ100mを走っていない。ドグラスは故障からの復帰途上。それに対し英連邦大会を10秒03で制したシンビネは、今季10秒0台をすでに3度記録している。

 現在絶好調の蘇炳添(中国)も今季注目の選手だ。3月の世界室内60mで銀メダルを獲得し、その後ダイヤモンドリーグ・上海でも100mで2位(10秒05)に入った。

 一方、200mで注目の選手はダイヤモンドリーグ・ドーハ大会を19秒83の自己ベストで制した20歳のノア・ライルズ(米国)だ。14年のユース五輪200mと16年の世界ジュニア100mで優勝したライルズは以前から期待を集めていた選手である。その彼がシニアの大会でもトップの選手に成長してきた。

 ロンドン世界選手権400m2位のスティーブン・ガーディナー(バハマ)は4月に200mでも19秒台に突入(19秒75)した。400mでもドーハと上海のダイヤモンドリーグを43秒台で制していて絶好調だ。ガーディナーとライルズの対決が注目される。

 400mでそのガーディナーに次ぐのが4月の英連邦大会400mで優勝したアイザック・マクワラ(ボツワナ)である。ドーハでは3位(44秒92)、そして上海では2位(44秒23)に入っている。マクワラは200mでも昨年19秒77の自己ベストを記録している。

 期待の新人は20歳のマイケル・ノーマン(米国)だ。大学室内選手権で44秒52の室内最高記録を記録した彼の母親は日本人で、中学時代はトップスプリンターだった。五輪と世界チャンピオンのウェイド・バンニーキルク(南アフリカ)は故障で今季は走らないとのことだ。

中距離はケニア勢が好調

中距離ではケニア勢が活躍。英連邦大会ではマナンゴイとチェルイヨットのワンツーフィニッシュとなった 【Getty Images】

 中距離では英連邦大会のメダリストが好調だ。

 800mでは英連邦大会で優勝した20歳のワイクリフ・キンヤマル(ケニア)が、ダイヤモンドリーグ・上海で自己ベストの1分43秒91で優勝している。そして1500mではロンドン世界選手権で1、2位だったエリジャ・マナンゴイとティモシー・チェルイヨットのケニア勢が今年も好調だ。4月の英連邦大会でもこの2人が金、銀に輝き、チェルイヨットはダイヤモンドリーグ上海を今季最速の3分31秒48で制した。

 110mHでは絶対的王者のオマール・マクレオド(ジャマイカ)が今年も無敵の快進撃を続けそうだが、400mHでは新鋭の台頭が目立つ。昨年の世界選手権では7位に過ぎなかったアブデラマン・サンバがカタール記録となる47秒台を2度記録(47秒90、47秒57)して絶好調だ。

バルシムの世界記録更新に期待 三段跳もハイレベルな争い

バルシムは早くも2m40越えに成功。自己ベストの更新、さらには世界記録の更新にも期待がかかる 【Getty Images】

 走高跳では世界チャンピオンのムタズ・エサ・バルシム(カタール)がダイヤモンドリーグ・ドーハで早くも2m40を跳んだ。彼は5月初旬に2m40を跳んだことはない。故に今シーズンには自己ベストの2m43、さらに2m45の世界記録更新にも期待が掛かる。4月に2m32の自己ベストで英連邦大会を制したブランドン・スターク(オーストラリア)がゴールデンGPに参加するが、英連邦大会優勝は意外だっただけに、大阪でどんな跳躍を見せるか。

 棒高跳では五輪、世界選手権で何度もメダルに輝いたルノー・ラビレニ(フランス)が世界室内を制して顕在だが、最も注目される選手は5m92、そして5m93と世界ジュニア記録を今季2度更新した18歳のアルマンド・デュプランティス(スウェーデン)だろう。5m88の世界室内ジュニア記録も記録している。10代のうちに6mを跳ぶ可能性もある。

 走幅跳では世界チャンピオンのルボ・マニョンガ(南アフリカ)が今季も好調だ。英連邦大会を制し、ダイヤモンドリーグ・上海では今季リスト1位の8m56を記録した。ゴールデンGPに出場するヘンリー・フレイン(オーストラリア)は(※)、英連邦大会予選で8m34の自己ベストを記録、決勝でも8m33を跳び2位に入っている。

※フレインは18日、ケガのためゴールデンGP欠場を発表している

 今年の3段跳では3年ぶりに複数の“18mジャンパー”が生まれるかもしれない。そうなると世界記録更新も夢ではない。ダイヤモンドリーグ・ドーハでは、15年に2度18m台を跳んだ15年北京世界選手権銀メダリストのペドロ・パブロ・ピチャルド(キューバからポルトガルに国籍変更)が18m一歩手前のジャンプ(17m95)を見せただけでなく、五輪連覇中で18mを4回越えているクリスチャン・テイラー(米国)を破った。15年と同じく今年も2人の争いが楽しみだ。

やり投で90m越えが連発

やり投勢は早くも90m越えを連発。ローラー(写真)らドイツ勢がけん引している 【Getty Images】

 今シーズンはすでに投てきで好記録が続出している。砲丸投では世界チャンピオンで、英連邦大会を制したトーマス・ウォルシュ(ニュージーランド)が絶好調だ。今季は22m台を3回も投げている。しかも今季ベストの22m67は歴代7位の記録だ。今季ウォルシュに勝ったのは、リオ五輪チャンピオンのライアン・クロウザー(米国)だけ。

 一方やり投では今季5回の90m越えを3選手が記録した。特にダイヤモンドリーグ・ドーハでは1位のトーマス・ローラー、2位のヨハネス・フェッター、そして3位のアンドレアス・ホフマンのドイツ勢がそろって90m越えを記録、初めて3選手が90mを越えた。他の注目選手は20歳のネーラジュ・チョプラ(インド)。英連邦大会を制したチョプラは、ドーハでもインド記録(87m43)で4位に入っている。

 今季、それぞれがどれだけ記録を伸ばしてくるか注目だ。
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著者プロフィール

三重県生まれ。カリフォルニア大学大学院物理学部博士課程修了。ATFS(世界陸上競技統計者協会)会員。IAAF(国際陸上競技連盟)出版物、Osaka2007、「陸上競技マガジン」「月刊陸上競技」などの媒体において日英両語で精力的な執筆活動の傍ら「Track and Field News」「Athletics International」「Running Stats」など欧米雑誌の通信員も務める。06年世界クロカン福岡大会報道部を経て、07年大阪世界陸上プレス・チーフ代理を務める。15回の世界陸上、8回の欧州選手権などメジャー大会に神出鬼没。

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