“強い”選手になるために必要なこと 元競泳代表主将・山本貴司インタビュー

田坂友暁
 世界と戦う選手には何が必要なのか、どういう選手が“強い”選手なのか――。
 競泳日本代表が8個のメダルを獲得した2004年アテネ五輪で、同代表のキャプテンを務めた山本貴司さん。五輪3大会に出場し、アテネ大会では200メートルバタフライで銀、4×100メートルメドレーリレーで銅メダルを獲得した。現在は、近畿大学水上競技部の監督として、後進の指導に全力を尽くす日々を送っている。
 選手個人としては五輪メダリスト、チームで考えれば日本代表のキャプテンを務め、日本代表選手たちをまとめ上げた実績を持つ山本監督に、自身の経験を踏まえて思う強い選手に必要なことを、日本代表へのメッセージとあわせて伺った。

思い出すソウル五輪 夢を引き上げた“鈴木大地の金メダル”

2004年アテネ五輪の競泳代表キャプテンを務めた近畿大の山本貴司監督。指導者となった今、強い日本代表選手が育つために大切なことを語ってくれた 【田坂友暁】

――いきなりではありますが、選手時代には日本代表キャプテンも務め、チームを引っ張る存在だった山本監督ですが、今選手たちを指導する立場になったことも踏まえて、日本代表チームにメッセージを送るとしたら、どういう言葉を送りますか?

 今僕が伝えたいのは、「次の日本の競泳界を育てるのは君たちなんやで」ということですね。
 ジュニアの選手たちは、今の日本代表選手たちを憧れて見ているわけですよね。ああいうふうになりたい、あんなふうに強くなりたいって。そう考えたら、憧れられている選手たちがどんなことをして、どんな結果を残すかで、次の世代の選手たちがどんなふうに育っていくかが変わると僕は思うんです。

 僕たちの世代が子どものときに持っていた夢といえば「五輪に出たいな」くらいです。日本人選手が五輪に“出ている”姿しか見ていないわけですから。そんな時に(88年の)ソウル五輪で鈴木大地さん(現スポーツ庁長官)が金メダルを取った姿を見て、僕たちは初めて「僕もメダル取りたい!」って思えたんです。そこから(日本代表が)メダルを取る姿を見せ続けることができているから、今の子どもたちも自然と「五輪でメダルを取りたい」という夢を持てるんです。

 想像できないことは、実行できません。子どもたちが想像できるレベルをどこまで高くしてあげられるか。今の日本代表選手たちの活躍によって、子どもたちが持つ夢、想像できる夢が変わってくるんです。強い言葉になりますが、そういう責任がある、ということを自覚してほしいと思っています。

――ジュニア世代に対して、自分の行動が与える影響を考える『責任感』ということですね。

 選手が世界と戦っている意味というのは、実はそういうところにあるのではないか、と僕は思っています。
 日本代表選手たちをテレビの前で応援しているちびっ子たちがいるわけです。その子たちが、どんな夢を想像できるかは、日本代表の選手たち次第なんです。未来の子どもたちの夢を背負っているんです。自分たちが子どもたちの未来を想像させてあげることができる。すごいことですよね。

キャプテンとしての覚悟「誰よりも結果を残せる選手になる」

――山本監督も現役時代にそういう責任感を大切にされていたと思いますが、(日本代表の)キャプテンとしてチームを率いる立場だったとき、ほかに大切にされていたことはありますか?

 キャプテンを経験して思ったのは『人の前に立つ人間は、自分が死ぬほど努力をして結果を残すこと』、その大切さでした。努力をしている姿をチームメートに見せること、それによって結果を残すから、話す言葉に重みが出る。だから相手の心に突き刺さる。
 ですから、僕がキャプテンになった以上は、チームのなかの誰よりも結果を残せる選手になろうと思いました。それができるから、ほかの選手たちの心を動かせる言葉を発することができるんだ、と。

 それは、今の近畿大学水上競技部のキャプテンになった選手にも話をします。結果を残さなかったら、選手たちの前で話をしてても「あいつ何言うてんねん」ってなるだけ。キャプテンになったからには、結果を残すこと、そのために努力することが大切なんだ、と。
 結果といっても、別に誰もが驚くようなことをしろ、と言っているわけではありません。自己ベスト更新でいいんです。ただ努力を重ねて、自己ベストを更新すること。それをしっかりやれば、話をしたときにチームの心を動かすことができるんです。

――自己ベスト更新が、実は最も難しい目標ですものね。

 そうです。水泳をやっていて何がいちばん難しいかというと、自己ベスト更新。そして、水泳選手はみんなそれを目指して頑張っています。それはジュニアだろうが、日本のトップ選手だろうが、世界のトップだろうが変わりませんし、それを達成することはとても難しいこと。だから、自分の自己ベストを更新することが最高の結果なんです。日本代表のキャプテンを任されて経験したことで、そういうことに僕も気付かせてもらいました。

応援してもらえる選手であることの大切さ

――そういう目標、課題に向かって努力をし続ける姿を見せる、ということも大切ですよね。そうすると、自然と周りが応援してくれるようになる。

 そうなんです。選手が自分から進んで苦しいことに立ち向かっていって、一生懸命に努力する姿を見ていると応援したくなりますよね。
 選手にとって大切なことはたくさんありますけど、そのうちのひとつが『人間性』。人間性のなかでも大事なポイントは、誰からも愛されるような、応援してもらえる選手であること、ひとりでも多くのファンを作ることなんです。

 僕が水上競技部で話をしているのは、まずはあいさつです。水上競技部が練習しているのは、近畿大学のクラブセンターというところにありますが、そこにきたら守衛の方がいる。まずは守衛の方に「おはようございます」。そして、プールにいくまでの間には、早朝から生徒たちのために掃除をしてくださっている方々がいます。その方々にも「おはようございます」。そして大切なことは、ただ単にあいさつするだけではなくて、その「おはようございます」に『いつもありがとうございます』という心を込めることです。

 毎日そうやって心を込めてあいさつをしていれば、それが伝わります。そうすると、いろいろなところで会う人たちが、水上競技部を応援しようと思ってくださる。そうやってひとりでもファンを増やして応援してくれる人が増えていくと、自分が本当に苦しいとき、辛いとき、悩んだときに手を貸してくれるようになり、結果を出せる方向に周りの人たちが自分を導いてくれるんです。そういう環境を自分が作り出せるかどうか。その根本にあるものが『人間性』なんです。
 だからこそ、強くなりたいのならファンを増やしなさい、人間性というのは、そういうところなんだ、ということを伝え続けています。

――それはスポーツをしている間だけではなく、社会に出ても同じことが言えますよね。

 そうです。結果を出したかったら、自分のために動いてくれる人を増やすこと。そういう人を増やせる人間性を身につけていかないとダメなんです。社会に出ても、仕事で苦しくて辛いときに助けてくれる人がひとりでも多くいれば、どんなに悩んでも結果を出せる方向にいろいろな人が自分を導いてくれるんです。そして、それに対してまた「ありがとうございます」って感謝を伝えれば、また自分を応援し続けてくれる。もちろん、反対に自分が誰かを助けることも大切ですよ。それが逆に自分を助けてくれる人を増やすことにもつながるんですから。

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著者プロフィール

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かした幅広いテーマで水泳を中心に取材・執筆を行っている。

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