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世界水泳で見えた競泳日本の戦い方
自己ベストは狙わず、冷静なプランを
今回の世界水泳で日本は7つのメダルを獲得したものの、金はなかった。果たして東京五輪へ向けて好スタートを切ったと言えるのか
今回の世界水泳で日本は7つのメダルを獲得したものの、金はなかった。果たして東京五輪へ向けて好スタートを切ったと言えるのか【写真:エンリコ/アフロスポーツ】

 7月14日からハンガリーのブダペストでスタートした第17回世界水泳選手権(以下、世界水泳)。競泳は、7月23日から30日までの8日間のスケジュールで行われた。結果から言えば、男子50メートル背泳ぎの古賀淳也(第一三共)、男子200メートル平泳ぎで小関也朱篤(ミキハウス)、男子200メートル個人メドレーの萩野公介(ブリヂストン)、女子200メートル個人メドレーで大橋悠依(東洋大学)が手にした銀メダルが4個。銅メダルが、男子200メートルバタフライと400メートル個人メドレーで瀬戸大也(ANA)、男子200メートル平泳ぎで渡辺一平(早稲田大学)の3個という、合計7個のメダルを獲得した。


 果たしてこの結果は、日本が2020年の東京五輪で掲げる『複数種目での金メダル獲得、および10個以上のメダル獲得』という目標に向け、好スタートを切ったと言えるのか。また、その目標を達成するために日本はどう戦っていけば良いのか。今大会を振り返りながら見ていきたい。

『いつも通り』がどれだけ難しかったか

大橋(左)と今井は『いつも通り』の泳ぎをしたからこそ、結果が付いてきた
大橋(左)と今井は『いつも通り』の泳ぎをしたからこそ、結果が付いてきた【写真:エンリコ/アフロスポーツ】

 多くの人を驚かせたのが、大会2日目に行われた女子200メートル個人メドレー決勝だった。カティンカ・ホッスー(ハンガリー)が出場するだけあって、会場は微振動が続くほどの大歓声に包まれる異様な雰囲気のなか、2位で100メートルをターンした大橋が最後までその順位を守り切り、2分7秒91の日本新記録で銀メダルを獲得する。指導する平井伯昌日本代表監督は「ひそかに狙っていました」と自信をもって送り出した大橋が、大舞台で自己ベストを2秒以上縮めて大仕事をやってのけたのだ。


「平井先生からは、初めてだからとか考え過ぎずに、練習通りにやってきたことをやりなさい、いつも通りに行動しなさいと言われていて、それができたので、落ち着いてレースに臨めました」


 こともなげにそう言ってのける大橋だが、今大会では『いつも通り』がどれだけ難しかったかが、大会4日目の男子200メートルバタフライで6位となった坂井聖人(早稲田大学)の言葉から読み解ける。


「僕が入場してきたあとにハンガリー選手が2人入場してきたのですが、あまりにも声援がすご過ぎて、僕の耳がおかしくなっちゃったんじゃないかと思うくらいでした。そこで気落ちしてしまったというか、『うわ、こんな雰囲気のなかで勝てるのかな』と不安が出てしまいました」


 リオデジャネイロ五輪という世界水泳を超える大舞台で、あの水の怪物マイケル・フェルプス(米国)を100分の4秒差まで追い詰めた坂井ですら、畏怖を感じるほどの雰囲気だったのだ。それをはね除けて自分のレースに徹し、大橋はしっかりと自分のやるべきことをこなし、結果を残したのである。


 大橋の活躍に隠れてしまった感じはあるが、同レースに出場していた今井月(豊川高校)も、2分9秒99という自己ベストをマークして5位入賞を果たす。惜しくもメダルには届かなかったが、ラスト50メートルの追い上げは、今井らしさが前面に出たレースだった。今井本人も「予選、準決勝、決勝と、どんどん緊張感がなくなっていって、リラックスして良い状態で臨めました。泳ぎも自分のプラン通りにできたと思います」と、肝の据わったコメントを残した。

作戦通りに泳いだ小関と渡辺

冷静なレースプランでダブル表彰台を飾った小関(右)と渡辺。125メートルからのロングスパートは作戦通りだった
冷静なレースプランでダブル表彰台を飾った小関(右)と渡辺。125メートルからのロングスパートは作戦通りだった【写真:エンリコ/アフロスポーツ】

 大会後半の男子200メートル平泳ぎでは、日本にとって世界水泳初となる快挙を成し遂げる。小関、渡辺によるダブル表彰台だ。うまく実行できなかった面もあったが、2人とも自分の作戦通り、最高のレースを見せてくれた。


 面白いのは、小関も渡辺も申し合わせたかように『125メートルからのロングスパート』という同じ作戦でレースに臨んだことだ。小関は行きたい気持ちを抑えて125メートルまで辛抱し、徐々にゆっくりとペースを上げていった結果、ラスト25メートルからのギアチェンジに成功。空回りせずにテンポを上げ、150メートルで一度は渡辺に前を譲ったものの、再度抜き返す。史上2人目となる2分6秒台で優勝したアントン・チュプコフ(ロシア)には及ばなかったが、2分7秒29で銀メダルを獲得した。


 渡辺の場合は、125メートル手前から「前に出よう、勝ちたいという気持ちが出過ぎて、少し力が入ってしまった」(渡辺を指導する奥野景介コーチ)。その言葉通り、150メートルではトップを奪ったが、ラスト25メートルで思うように泳ぎが伸びなかった。とはいえ、渡辺もきっちりと2分7秒47をマークし、銅メダルを獲得した。


 2人とも「ワンツーフィニッシュがしたかった」と言うが、それでも自分の力を最大限出せるレースプランを考え、それをしっかりと実行した。大橋や今井と同じく、自分がどうすれば世界と戦えるのか、表彰台に昇ることができるのか。気持ちは熱く、頭は冷静にレースを泳ぎ切ったからこそ、結果を残すことができたのである。

田坂友暁

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かした幅広いテーマで水泳を中心に取材・執筆を行っている。

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