不器用な男、石川直宏が選んだ次の目的地 FC東京を「強く、愛されるチーム」に

馬場康平

人生の半分を費やした、長い現役生活を終える

昨季限りでピッチを去った石川直宏。人生の半分を費やした長い旅に終止符を打った 【スポーツナビ】

 昨季限りで、選手・石川直宏はピッチを去った。2017シーズンのJ1最終節、12月2日のガンバ大阪戦に先発出場し、翌日のJ3最終節セレッソ大阪U−23戦に途中出場。「全て出し切った」という2日間を終え、人生の半分を費やした長い旅に終止符を打った。

 石川は昨年8月の現役引退発表会見以降、何度も同じ質問を受けてきた。

「引退後は何をする?」
「指導者の道に進む可能性は?」

 すると、決まってこう答えた。

「本当に、まだ何も決めていないし、決まっていない。とにかく選手として最後までやり切って、その後のことは、それから考えようと思っている」

 その口からこぼれるのは、いつも純度100パーセントのコメント。もちろん、この言葉に偽りはなかった。

FC東京で新たなポストに就くことが決定

最終戦後に行われたセレモニーの様子。この時はまだ、翌年のことは何も決めていなかったという 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 いつもそうだった。不器用を絵に描いたような男は、同時進行で2つのことができない。目の前の目標に向かって全力を尽くした後に、自己収束させて次に向かうエネルギーを蓄えはじめる。それが彼の生き方。だから、最終戦の引退セレモニーが終わっても、翌年のことは何も決まっていなかった。「大丈夫なの?」とこちらが心配しても、「何とかなるよ」とケセラセラ。

 ただし、その変わり身の早さにはいつも驚かされてきた。今度もやっぱりそうだった。引退試合から数日後には、すぐにサーフボードを片手にバックパックを背負い、サーフトリップへと出掛けた。無心で波と戯れた、その旅から帰ってきた彼は、「やりたいことがある」と言い、次のステージの話を始めた。呆気に取られるこちらのことはお構いなし。よどみなく溢れる思いを言葉に換えていった。

「もう振り返ることはない。あの2試合で選手としては全てを出し尽くしてやり切った。そこはそこ。選手として出し尽くしたから後悔はない。もちろん選手時代に感じたことや、やってきたことをこれからにつなげていきたいけど、今はまっさらな気持ちで次にチャレンジできる感覚がある」

 そして、年が明けた1月13日、クラブの新体制発表会で「FC東京クラブコミュニケーター」という新設されたポストへの就任が発表された。

「いろいろなことを考えた。指導者への道も、もちろん一度クラブから離れることも。広い視野で、いろいろな人と話をした。その中で残ったのは。FC東京を強くしたいという気持ちだった。自分もこのままじゃ終われないし、このクラブと関わる中で、共に成長していきたい。その中で、自分だけにしかできない役割があると思った。このクラブがどうあるべきか。今の自分にある、根拠のない自信を形にしていきたい」

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著者プロフィール

1981年10月18日、香川県出身。地域新聞の編集部勤務を経て、2006年からフリーに。現在、『東京中日スポーツ』等でFC東京担当記者として取材活動を行う。2019年に『素直 石川直宏』を上梓した。

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