不器用な男、石川直宏が選んだ次の目的地 FC東京を「強く、愛されるチーム」に

馬場康平

クラブとスポンサー、ファンの“橋渡し役”に

石川は「クラブコミュニケーター」として、クラブとスポンサー、ファンやステークホルダーの“橋渡し役”を目指す 【スポーツナビ】

 石川が新たな仕事に選んだ「クラブコミュニケーター」として、大切にしたいキーワードは「つなぐ」だ。FC東京は今季、「強く、愛されるチームをめざして」というスローガンを打ち立てた。このフレーズは創設以来、ずっと掲げられてきた、言わばクラブの哲学でもある。クラブ、スポンサーやステークホルダー、そしてファン・サポーター。その三位一体の成長モデルを築くためには、相互間の関係強化は必須だ。そこには、クラブへの愛情が欠かせない。

 ファン・サポーターが、愛情ゆえの厳しい目でチームを育てることで、チームの競技パフォーマンス向上につながる。それが来場者増につながり、結果的に強化資金の増加、魅力的なチームづくりを可能とする。多くのファン・サポーターを獲得することで、企業やステークホルダーの支援を受けることにもつながる。その結果、スポンサー収入の増加によって、さらなる強化が進む。クラブを支援しているスポンサーに対して、ファンが好感を持つことで、企業としての価値が上がり、同時にクラブの価値をも向上させる。それが地域、ひいては日本全体のサッカー文化の醸成にもつながっていく。

 石川は、それらの“橋渡し役”を目指すというのだ。

「選手時代は自らに起こることに意味を持たせるために、起こることを全て善きことにできるように、それをプレーで示して次につなげてきた。これからは、人や結果、そして歴史をつないでいきたい。引退して間もない自分だからこそ、できることがある」

 何か行動を起こす時に重要になるのは、やはり“顔”だ。石川は、プロサッカー選手として18年間、第一線で戦ってきた。石川にはそこで培った経験や、知名度がある。「まだまだスキルは足りないかもしれない。でも、その代わりに熱はある。だから求められるのならどこにでも行くし、話を聞いてもらいたい」。そうやってクラブへの愛情を深めたいというのだ。

「自分にできることは何でもやりたい」

「クラブで働く人たちの思いもくみ取っていきたい」と石川。「自分にできることは何でもやりたい」と前を向く 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 言葉にするのは簡単だが、決して平たんな道ではない。支援を得るためには、スポンサーメリットや費用対効果は無視できない。結局は、魅力的なクラブでなければ話は進まない。だからこそ、石川は「クラブの中も変えていきたい」と言って、こう続ける。

「このクラブは数年前に比べて、関わる人の数も規模も、大きくなってきた。大きくなる中で、それぞれの関係がより密接になっているかというと、まだまだ足りない部分もあると思う。選手やコーチングスタッフ、ビジネススタッフも、それぞれの意見や思いがある中で、同じ目標に向かっていくことが必要になる。だから、クラブに関わっているファン・サポーターやスポンサー、ステークホルダーの方たちの思いとともに、クラブで働く人たちの思いもくみ取っていきたい。

 1年、1年必死に勝負している選手と同じ熱量を持つのは難しいかもしれない。でも、このFC東京で働くスタッフにはキラキラして仕事をしてほしい。そのために、まずそれぞれがどんな思いでどんな仕事をしているのかを知りたい。その人たちがより刺激的でやりがいを持てるのなら、自分にできることは何でもやりたい」

 愛されるクラブで働く人たち自身が、まずクラブ愛に溢れ、魅力的でなければ、周囲の理解を得ることはできない。在籍16年で育んだ青赤愛。自らに共感してくれる人たちを笑顔にするために、どんな代償を払っても思いを形にしてきた。そんな男が長い旅路を振り返り、見つけた次の目的地。

「これからまたいろいろな壁にぶつかるだろうし、大変かもしれない。でも、それを形にしていきたい」

 青赤の18番を脱ぎ、スーツにネクタイが新たな石川のユニホームとなった。だが、放つ熱は現役時代と少しも変わらない。相思相愛。自分がそうあり続けたように、誰かにFC東京を好きになってもらいたい。その一念が、彼の背中を押し続ける。

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著者プロフィール

1981年10月18日、香川県出身。地域新聞の編集部勤務を経て、2006年からフリーに。現在、『東京中日スポーツ』等でFC東京担当記者として取材活動を行う。2019年に『素直 石川直宏』を上梓した。

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