安間監督が選手に求める「ギブ&テイク」 今季を無駄にしない――。FC東京の再出発

後藤勝

安間新監督の「勝負だった」就任1日目

16日に初戦となるベガルタ仙台戦に臨んだ安間監督 【(C)J.LEAGUE】

 9月9日に行なわれたJ1第25節でセレッソ大阪に1−4の完敗を喫すると、FC東京はその翌日に篠田善之監督の解任と安間貴義コーチの監督就任を発表した。そして始動から16日に安間体制の初戦を迎える前日までの4日間、選手たちは「安間さんのやりたいサッカーができるよう、ひとつの方向にまとまる」という言葉を繰り返した。

 しかし安間監督は、かたくなに自身がやりたいサッカーを曲げず、適応せよと選手に迫ったわけではない。いくつもの引き出し(選手から『ドラえもん』とあだ名をつけられている)の中から、現状の選手層に合う戦術をピックアップしただけの話だ。もちろん安間監督の好む範疇(はんちゅう)ではあろうが、好みの戦い方自体に無数のバリエーションがあるので、安間監督のやりたいことでもあり、選手に合ったものでもある、という一致点が見つかる。

 安間監督が9試合限定の暫定監督に就任したのは10日。その日は一部指名選手のみのトレーニングで、翌11日はオフであり、選手全員が集合するのは12日だった。イレブンの心をつかむことができるのか。この初顔合わせが、安間監督にとっての勝負だった。

「元代表がいるわ、韓国代表がいるわ、そうそうたるメンバーがいる中で、アイデアが違っていたら、そっぽを向かれると思うんですね。ぼくは(選手時代に)Jリーガーではないし。だけどその中で彼らの特長をつかみながら裏付けのあるサッカーを提示して、1日目にこちらに目を向けさせるのがまず勝負だったので、そこがうまくいったのがすべてだと思います」

 ベガルタ仙台に勝った試合(J1第26節、1−0)後、記者会見を終えたあとも、勝利の秘訣、最悪の状態から脱した方法に迫ろうと、報道陣が安間監督にぶら下がる。そこでの述懐だ。現役時代から続く強烈なカリスマを持ち合わせていないのであれば、指導の中身で選手を引っ張っていかなければならない。

監督と選手のサッカー観が合致

 では、選手たちに提示したものとは何だったのか。12日の練習後、梶山陽平はこう言っていた。

「安間さんがやろうとしていることがミーティングで“バーっと”ですけれど説明され、その中に『ポゼッションをベース』というくだりがありました。選手同士で話している中では、その方がいいという意見が多かった」

 ボールを支配する時間を長くすることで失点を減らす。前に運んで仕掛けられない状況であれば、戻してやり直してもいい。そういうサッカーだった。

「パスをつないでいて選手間の距離が近ければ、奪われたときもすぐ奪い返しにいける」という、ここまで大久保嘉人から繰り返し聞いた主張が思い出される。そこに、安間監督の「失った場合も、そこからもう一度果敢に奪いにいくということで、しっかりと高い位置を取れると思っていた」という仙台戦後の記者会見の言葉が合致する。

 同じ記者会見中の「(相手がブロックを)抜けてきたとしても、しっかりと蛇行させて、スタートポジションを取る、くさびのボールに対して戦うという流れを作りました」という言葉は、昨年、FC東京U−23で掲げた「積極的に仕掛け、全力で戻る」プレー原則に近いもの。安間監督は、はっきりとした基準を定めたのだ。

FW陣の個性を尊重したルール

ウタカ(9番)や大久保(嘉)など一度中盤に下がってマークを外すのが得意なFWが多いため、安間監督は「下がってくるのはOK」と明確に伝えた 【(C)J.LEAGUE】

 3トップに対して初期ポジションで張っていろ、という類の指令は下していない。FW陣の個性を尊重している。

「下がってくるのはOKにしています。なぜなら嘉人にしても、(東)慶悟にしても、(ピーター・)ウタカにしても、一度中盤に下がってマークを外すのが得意な選手なので、それを認めてあげて得点を狙えるエリアに入っていくところをやってもらいました」

 3トップは流動的で、下がったところでパスを出し、もう一度ゴール前へと入っていく。中盤やウイングバックと連係することで、各所で数的優位をつくるという狙いだ。

 17日のJ3第23節、FC東京U−23vs.AC長野パルセイロ(1−0)でも、3トップの流動性と下がってくる動きは顕著(けんちょ)だった。特に前田遼一が、右ウイングバックの内田宅哉の前にできるスペースに加勢するプレーが目立った。あるいは、もともと攻撃の選手である内田の守備能力を補うためであったのかもしれない。

 本来は前目のプレーヤーながら長年ボランチとしてポジションをつかんできた梶山は、安間新体制ではFW。ただしフリーマン気味に動く。名古屋グランパス時代のドラガン・ストイコビッチのイメージが近いようにも思える。いいパスを出していた。彼も前後左右に顔を出し、U−17日本代表世代であるボランチの平川怜とよく連動した。

 FWが中盤やワイドと絡むのであれば、中盤も最終ラインと絡む。仙台戦で橋本拳人とドイスボランチを組んだ高萩洋次郎は、最終ラインに下がり、広がった3バックの間に位置し、ボール保持、ビルドアップに関与。安間監督の3−4−3が広島型に近いと指摘されるゆえんだ。その高萩も、米本拓司が投入された終盤は前でプレー、積極的に攻撃に関わった。このサッカーでは、大久保(嘉)であろうと高萩であろうと梶山であろうと、個と個が連係して浮くことがない。そして個の特長が際立つ。

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著者プロフィール

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン「青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン」 (http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。「サッカー入門ちゃんねる」(https://m.youtube.com/channel/UCU_vvltc9pqyllPDXtITL6w)を開設 。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊 http://www.kanzen.jp/book/b181705.html)がある。【Twitter】@TokyoWasshoi

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