齧歯類の下歯がトド松を倒す。メラグラ。 「競馬巴投げ!第153回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

ビーバーはなぜ巨木を倒すほど齧りつくすのか

[写真1]レッツゴードンキ 【写真:乗峯栄一】

 アメリカ・ワイオミングのビーバーには考えさせられるところがある。

 ビーバーはカピバラやネズミなどと並ぶ「齧歯類(げっしるい)」の代表選手だ。齧る(かじる)歯の類である。しかしビーバー最大の弱点は、その自慢であるはずの丈夫な歯にある。

 ビーバー生息地の周りの樹木は齧り倒されて荒地のようになる。森林被害として問題にもなるが、しかしビーバー自身は葉っぱや木の皮は食べるが、木の幹は食べない。なぜ巨木を倒すほど齧りつくすのか。

 ビーバーの飛び出た上歯2枚は木に差し込んで獲物(樹木)を固定する。実際に齧るのは下歯2枚だが、この下歯、放っておくとどんどん湾曲して伸び、自分の顔の前面から頭上を回って後頭部に突き刺さる。齧りたくないけど、木の幹を齧らないと自分の伸びていく下歯に殺される、齧歯類は辛い宿命の中で生きている。

つまり野生動物のオスは自分の最も得意とする技でメスの興味を引く

[写真2]ダイアナヘイロー 【写真:乗峯栄一】

 ビーバー、特に働き者のオス・ビーバーは齧り倒した木の幹を運んで川を堰き止め、自分の巣の入り口を水没させて外敵の侵入を防ぐとか、水草を繁茂させて食用にするとか、色々言われるが、ドキュメントを見た感じでは「ダム湖を作るために好きでもない木の幹を齧る」というより「歯を磨滅させるために木の幹を齧っていたら倒木が出来た、しょうがない、ダム湖でも作るか」という雰囲気だ。

 天井裏に住むイエネズミが電気配線齧ってショートさせて火事になる話もあるが、あれもイエネズミが「この家けしからん、火事起こしてやる」と電線齧っているわけではない。伸びてくる自分の歯を削るために目の前の電線齧っていたら火事になったというだけのことだ。

 例えばタンザニア・セレンゲティのオス・ライオンは成長すると群れから離れ、他のメス集団に参入する。このときメス集団がオスを受け容れる(交尾する)かどうかはオスの手みやげによって決まる。

 手みやげがバッファローやヌーの大物なら「あら“できる”オスなのね」と、メスはさりげなく尻を向けるが、イボイノシシやガゼルの中物なら「うーん」と考える。地ネズミなんかだとハナも引っかけられない。

 南米アンデスのラクダの仲間グアナコは繁殖期になるとオスどうしが唾をかけ合う。より臭い唾を吐けるオスが勝ち残ってメスに迎えられる。

「あなたの唾って何て臭いの」というメスの誉め言葉を得るために、オスは日夜臭い唾に磨きをかける。

 オス・ヘラジカの大角とか、オス・クジャクの羽だってそうだ。つまり野生動物のオスはすべて自分の最も得意とする技で他のオスと勝負し、メスの興味を引く。悲しいことだが、これは人間を含め、ほぼすべての動物に共通する。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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