世界水泳で見えた競泳日本の戦い方 自己ベストは狙わず、冷静なプランを
世界で結果を残すために必要なこと
世界大会で結果を残すために必要なこと。それは『状態が良くても悪くても、冷静に今の力を出し切るレースができるプランを考え、実行する』ことだ 【写真:エンリコ/アフロスポーツ】
『今の自分の状態を把握し、力を出し切れるプランを立て、冷静に実行する』
今回は、前評判で言えば二桁のメダルが期待されていた大会でもあった。結果は7個だが、日本が常に世界の上位でメダル争いをし、メダルも含めて24個の入賞を果たしている事実は、着実に選手たちが力をつけてきていることを証明している。そう考えれば、今大会は十分に良い結果だった。
しかし、裏を返せば、二桁のメダルが期待されていた中、なぜメダルが7個にとどまってしまったのか。それは期待の大前提に『自己ベストをマークする』ことがあったからだ。
世界大会において、今まで自己ベストや世界新記録で優勝、という最高の形で終わったレースは、半分あるかないかという程度。もちろん、2008年の北京五輪で8冠を果たし、うち7種目で世界記録をマークしたフェルプスや、古くは1972年のミュンヘン五輪で7冠すべてで世界記録というマーク・スピッツ(米国)という例もある。異例ではあるが、43個の世界記録が誕生した2009年の世界水泳(イタリア・ローマ)もある。
だが、フェルプスしかり、オーストラリアの英雄キーレン・パーキンスやグラント・ハケットしかり、北島康介しかり。本当の強さを見せつけたレースでは、必ずしも自己ベストをマークしているわけではない。ベスト記録という100パーセントの力をベースにして、狙ったレースで勝つためのプランを構築していく。それが意味するのは『余裕』だ。
大橋や今井は「いつも通り自分の泳ぎに集中」したから、余裕が生まれ、100パーセントを超える力を発揮できてベストを更新した。小関と渡辺は、100パーセントの力をどうすれば決勝レースで出し切るかを考え抜き、それを冷静に実行したから、2人で表彰台に上ることができた。
ただでさえ大会期間中は緊張感が続き、選手たちは知らないうちに疲労を抱えてしまう。200メートルでは最高の結果を残した大橋も、その6日後に行われた最終日の400メートル個人メドレーでは「日に日に疲れていってしまった」と、思うようなレースができなかった。1週間以上の過酷なスケジュールの中、狙った決勝レースにピンポイントで調子を合わせ、自己ベストを出せる状態に持っていくことの難しさがうかがえる。
日本が今後、世界と本当に肩を並べて戦っていくには、ベスト記録を出して戦える状態を作るのではなく、『状態が良くても悪くても、冷静に今の力を出し切るレースができるプランを考え、実行する』ことなのだ。
レベルが上がっていない種目も多い
短距離で驚異的な力を見せつけたケーレブ・ドレセル。世界が進んでいる印象も強いが、レベルが上がっていない種目があるのも事実 【写真:ロイター/アフロ】
だが、男子の100メートル、200メートル背泳ぎや、男女の200メートルバタフライ、女子400メートル個人メドレーなど、さほどレベルが上がっていない種目も多い。日本選手権で出した記録でも、十分にメダル争いをすることができた種目も多くあるのも事実なのだ。
今大会で、日本が得た課題は少なくない。この結果を選手たちはどう受け止め、経験したことをどう昇華していくのか。かつてはメダルが取れるどころか、決勝に残ることを目標にしていた日本が、今では世界とどう戦うのか、どうすれば良い色のメダルを狙えるのかを考えている。その事実に喜びを感じながら、来年のアジア大会、そして2年後の韓国・光州で行われる第18回世界水泳での日本の戦い方に注目したい。年々、着実に実力をつけている日本だからこそ、心から期待を込めて。