無名選手から世界水泳銀メダリストに 繊細な大橋悠依を強くした、恩師の心遣い

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平井コーチも驚いた銀メダル

大橋悠依が初めての世界水泳で銀メダル。日本記録をマークする会心のレースだった 【写真は共同】

「私、昔から大事な場面には強いんです」

 言葉通りのあっぱれな勝負強さだった。

 水泳世界選手権(以下、世界水泳/ハンガリー・ブダペスト)の競泳2日目に行われた女子200メートル個人メドレー(2個メ)決勝。大橋悠依(東洋大)は全4泳法でベストラップをたたき出す会心の泳ぎを見せ、自己ベストを2秒近くも上回る2分7秒91の日本新記録で銀メダルを獲得した。

 21歳にして世界水泳は初挑戦。しかも、メダル獲得を目指して注力していたのは日本記録(4分31秒42)を持つ400メートル個人メドレー(4個メ)だったのだから驚きだ。それは成長の過程を誰よりも大橋を知る恩師・平井伯昌コーチも同様だった。

「(2分)8秒台は出ると言っていましたが、それを上回って7秒台まで出してくれました。あれが大橋悠依なんです!」

 4月の日本選手権で4個メを初めて制して突如として現れた新星を、さらにアピールするかのように声を大にした。それもそのはず、大学入学から3年間、当時無名だった大橋の素質を信じ、我慢強く育て上げたのは他でもない平井コーチである。

 大橋にはスタート台に左側から上り、さらに顔をたたくというルーティンがあり、やらなければ「あ〜、やばい」とプレッシャーに押しつぶされてしまうという。そんなナーバスになりがちな大橋に対して、平井コーチは些細なことにも人一倍気遣い、成長を促してきた。大学1年の終わりから2年の夏にかけては、貧血の影響で記録が伸び悩み、苦しむ姿も見てきた。そんな愛弟子を言葉でも後押し。大会前には大橋も、不調が態度に出てしまう自身の振る舞いに対して「まずはそういうメンタルの部分を直してみたらどう?」とアドバイスされたと振り返っていた。

“冗談”で送り出した意図

平井コーチの冗談で送り出されたという大橋。レースでは1種目めのバタフライから積極的な泳ぎを見せた 【写真は共同】

 銀メダルを獲得したこの日も、平井コーチはレース前にこんな言葉をかけて大橋をアシストした。

「1990年代(生まれのライバル)が並んでいるから、『90年代には全部勝ってこい!』って言ったら『そんなのできません』と言っていました。(優勝したカティンカ・)ホッスーは80年代だし、(今井)月(るな/豊川高、同レース5位)は2000年代だからと冗談を言っていたんです」

 大橋も「90年代勝負を制するとメダルが取れるねと話していたので、本当にその通りになってうれしいです(笑)」とレース後に語るほど印象に残ったようだ。決勝での“作戦”を冗談で伝え、初の大舞台に挑む大橋の気持ちを最大限ラクにする。これも、平井コーチの気配りだったのかもしれない。

 大橋の次なるターゲットは、最終日に臨む4個メでのメダル獲得だ。日本選手権でマークした日本新記録は、昨夏のリオデジャネイロ五輪銅メダル相当のタイム。平井コーチも「(2個メでは)すごい力を出してくれた。400(メートル)がすごく楽しみ」と期待を膨らませる。

 繊細な反面、勝負強さには自信を持つ大橋のことだ。きっと本命の4個メでも、平井コーチを驚かせるような結果を残してくれるに違いない。

(取材・文:澤田和輝/スポーツナビ)
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