2人の監督は“共存”できない スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(16)

木村浩嗣

なぜ「銀河系テクニカル軍団」はできないのか

かつてレアル・マドリーが作った「銀河系軍団」。すごいチームだったが、「銀河系テクニカル軍団」はできないのだろうか 【写真:ロイター/アフロ】

 かつてレアル・マドリーが「銀河系軍団」というのを作ったことがある。ロナウド、デイビッド・ベッカム、ジネディーヌ・ジダン、ルイス・フィーゴ、ラウール・ゴンザレス、ロベルト・カルロスが共存するすごいチームだった。では、なぜ「銀河系テクニカル軍団」はできないのか?

 例えば世界有数の監督であるジョゼップ・グアルディオラとジョゼ・モウリーニョがタッグを組めば、世界最強のチーム作りができるのではないか。え、2人は仲が悪い? じゃあ、選手時代にバルセロナで同じ釜の飯を食った仲のグアルディオラとルイス・エンリケではどうか。歳が近すぎてライバル意識があるかもしれない? では、グアルディオラが「マエストロ」と呼ぶマルセロ・ビエルサと組む師弟タッグならどうか? あるいは一緒に指揮経験があるカルロ・アンチェロッティを呼び戻してジダンとのコンビ復活はどうだろうか?

 これらはいずれもうまくいかないだろう。なぜならサッカー観が違うからだ。グルディオラとルイス・エンリケとビエルサのサッカーは似通っているが、それでもまったく同じではない。

 スペインでは「監督はそれぞれが1つの世界」と言われる。世界が成立しているルールや統治のやり方、構成員は監督によって異なる。2つの世界を無理に統合すれば必ず戦争が起きる。そういう意味では、今のグアルディオラがバルセロナ時代のグアルディオラとベンチを分かち合うこともできない。グアルディオラはドイツでの経験で学び成長した。同じ人間だが、やっているサッカーが違えば、必ず軋轢(きれつ)は生じる。

監督は「世界」だから他人に口を挟まない

29人の子供の面倒を1人で見ることは物理的に不可能。効率的に練習をするにはグループ分けし、それぞれにコーチを付けるしかない。彼らにもスペインの子供に学んでもらえ一石二鳥だ 【木村浩嗣】

 前述の銀河系軍団は銀河系を制覇するどころかほとんどタイトルが獲れず看板倒れに終わった。天才同士のエゴが邪魔をしてチームワークが保てなかったのだ。同じことが銀河系テクニカル軍団にも言える。昔の人は良いことを言った。「両雄並び立たず」であり「船頭多くして船山に登る」である。

 監督は「世界」であるから完全に独立しており、軽々しく他人の仕事に口を挟まないというのがスペインのルールである。

 私は今季2チーム分の子供を指導しており、AチームとBチームの試合が重なる時はAチームの指揮をスクールの校長に任せている。もちろん彼と私はサッカー観が違う。どうやら根底から違うようで、Bチームの試合後にAの試合に駆け付けると、ばんばんロングボールを放り込んでいる。GKはスローやショートパスを出さず、ほぼ100%蹴っている。

 GKには長く蹴らせずセンターバックやセントラルMFとのコンビネーションでボールをつなげ、と指導している。練習中はAもBも区別せず私のやり方でやっているのだが、試合では校長の「上へ!」の掛け声でGKがドカンと蹴る。彼なりのサッカー観でベストの方法だと判断してのことであり、それで実際にAの成績は伸びている。

 監督には誰しも監督生活で積み重ねた経験則というのがある。見た光景、目に焼き付いて忘れられない失敗や成功から修正や学習を重ねて今まで歩んできた道であり蓄積である。経験は万人によって違うし、時間を後戻りすることもできない。だから私も5年前の私とはベンチで共存できない。校長は私より1ランク上の「レベル3」の資格、ナショナルコーチのライセンスを持っている。経験も私より長い。それでも私は自分のサッカー観の方が正しいと思っている。「簡単に蹴るなよ!」と胸の中でつぶやいている。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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