監督もチームとともに成長しなければ スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(14)

木村浩嗣

目指すはバルサのポゼッションサッカー

わがチームにはメッシもネイマールも、スアレスもいない。では、どうするか? 【写真:ロイター/アフロ】

 前回のコラムから1カ月、Aチームは1試合、Bチームは2試合をプレーしたが3連敗。得失点は3試合通算で4得点9失点と、攻守ともにレベルアップが必要なのは明らかなのだが、特に心配しているのが得点力不足である。

 うちのチームはGKに長く蹴らせず、スローさせてつないでいくので、それをかっさらわれてある程度失点するのは覚悟している。GKが左右に大きく開いたセンターバック(CB)にスローし、CBがライン際に開いたMFにパスをするボール出しのプロセスの中で、GKの判断ミス、CBのパスミス、MFのトラップミスのどれか1つでもあれば、ショートカウンターを食らってたちまち失点の危機になる。

 かと言って、「長く蹴れ!」と言っていては一向にうまくならない。AとB合わせて4チームと対戦して分かったが、長く蹴ってくるチームが3つ、つなぎとキックの併用が1つ。徹底してつなぐのはうちだけ。やはりリスクの少ないサッカー、長く蹴るスタイルが小学生のサッカーでは主流なのだ。

 もう1つスタイルの話をすると、前から激しくプレスにいくのもうちだけ。あとの3チームは引いて待ってカウンターのチャンスをうかがうやり方だった。GKからボールをつなぎ、ボールロストしたらすぐにプレスを掛けて奪い返す。そうすると自然にボールポゼッションの時間が長くなる。そう、うちのチームが目指しているのはスペイン代表やバルセロナのようなポゼッションサッカーなのだ。

1トップにボール扱いが一番拙い子を置く理由

 だが、うちにはリオネル・メッシもネイマールも、ルイス・スアレスもいない。それどころかシステム「2−3−1(7人制サッカー)」の1トップに置かれているのは、チーム内でボール扱いが一番拙い子供たちである。

「チームの目的はベストのタイミングと場所で、メッシにボールを渡すことだった。メッシがフィニッシュすることで、われわれのプレーが完遂する」と、現マンチェスター・シティ監督のジョゼップ・グアルディオラはバルセロナ時代を振り返っている。ボールを保持し、試合を支配するだけでは勝てない。チームに勝利をもたらすゴールを決めるのは自分の戦術ではなく、メッシという世界ナンバー1の個だったと、認めているのだ。

 うちにはメッシはいないが、ボール扱いの巧みな子はいる。「なぜそのうまい子をFWに据えて、メッシ役をさせないのか?」。そう聞かれたらこう切り返そう。
「では下手な子はどこでプレーさせるのか?」

 GK? CB? MF? ボール出しのプロセスのどこでミスが出ても致命的なピンチになるが、FWであれば個のミスの影響は、ボールロスト後のプレスによって奪い返すことで、最小限にすることができる。

 念のために言うと、下手でも全然構わない。子供たちはサッカーを学びにきているのだから、少しずつ技術を身に付けていけば良い。実際、彼らのパスとコントールの上達具合に、われわれも目を細めるほどだ。だが、実戦で圧力を掛けられるとボールを失ってしまうし、シュートも満足に枠には飛ばせない。ましてや、メッシのように3人抜きでゴールなんてあり得ない。毎週末のコンペティションは彼らの成長を待ってくれないのだ。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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