監督もチームとともに成長しなければ スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(14)
目指すはバルサのポゼッションサッカー
わがチームにはメッシもネイマールも、スアレスもいない。では、どうするか? 【写真:ロイター/アフロ】
うちのチームはGKに長く蹴らせず、スローさせてつないでいくので、それをかっさらわれてある程度失点するのは覚悟している。GKが左右に大きく開いたセンターバック(CB)にスローし、CBがライン際に開いたMFにパスをするボール出しのプロセスの中で、GKの判断ミス、CBのパスミス、MFのトラップミスのどれか1つでもあれば、ショートカウンターを食らってたちまち失点の危機になる。
かと言って、「長く蹴れ!」と言っていては一向にうまくならない。AとB合わせて4チームと対戦して分かったが、長く蹴ってくるチームが3つ、つなぎとキックの併用が1つ。徹底してつなぐのはうちだけ。やはりリスクの少ないサッカー、長く蹴るスタイルが小学生のサッカーでは主流なのだ。
もう1つスタイルの話をすると、前から激しくプレスにいくのもうちだけ。あとの3チームは引いて待ってカウンターのチャンスをうかがうやり方だった。GKからボールをつなぎ、ボールロストしたらすぐにプレスを掛けて奪い返す。そうすると自然にボールポゼッションの時間が長くなる。そう、うちのチームが目指しているのはスペイン代表やバルセロナのようなポゼッションサッカーなのだ。
1トップにボール扱いが一番拙い子を置く理由
「チームの目的はベストのタイミングと場所で、メッシにボールを渡すことだった。メッシがフィニッシュすることで、われわれのプレーが完遂する」と、現マンチェスター・シティ監督のジョゼップ・グアルディオラはバルセロナ時代を振り返っている。ボールを保持し、試合を支配するだけでは勝てない。チームに勝利をもたらすゴールを決めるのは自分の戦術ではなく、メッシという世界ナンバー1の個だったと、認めているのだ。
うちにはメッシはいないが、ボール扱いの巧みな子はいる。「なぜそのうまい子をFWに据えて、メッシ役をさせないのか?」。そう聞かれたらこう切り返そう。
「では下手な子はどこでプレーさせるのか?」
GK? CB? MF? ボール出しのプロセスのどこでミスが出ても致命的なピンチになるが、FWであれば個のミスの影響は、ボールロスト後のプレスによって奪い返すことで、最小限にすることができる。
念のために言うと、下手でも全然構わない。子供たちはサッカーを学びにきているのだから、少しずつ技術を身に付けていけば良い。実際、彼らのパスとコントールの上達具合に、われわれも目を細めるほどだ。だが、実戦で圧力を掛けられるとボールを失ってしまうし、シュートも満足に枠には飛ばせない。ましてや、メッシのように3人抜きでゴールなんてあり得ない。毎週末のコンペティションは彼らの成長を待ってくれないのだ。