栗東滞在個人情報。ロードクエスト 「競馬巴投げ!第132回」1万円馬券勝負
カード会社どうしの情報交換は誰も問題にしない。なぜだ?
[写真1]クラレント 【写真:乗峯栄一】
ぼくらが子供の頃はクラス替えがあるたび、住所・電話番号・保護者氏名を書いた名簿を学年全体で作って渡されていた。「へえ、××くんの保護者、お母さんの名前になってるわ、やっぱり離婚したんやね、お父さんに愛人がいるって噂だったからね」などと名簿見ながら、各家庭の詳細個人情報調査を行っていた。プライバシー保護も何もあったものではない。
今でもカード会社なんか、ひとの家の負債状況を横並びで共有している。どこの貧乏人がどれだけ負債があるかを、カード会社が互いに情報交換している。「あなたの負債は他社様の分と合わせて」と言われたときは驚いた。しかもこっちの情報を勝手に交換しておいて他社には「様」付けだ。ぼくに言わせれば、電話番号や住所が知られるより、負債状況を勝手に横流しされる方がよっぽど個人情報侵害だ。でもカード会社どうしの情報交換は誰も問題にしない。なぜだ?
あ、奥さん、今日も牛乳飲んだんだ、ヘヘ
[写真2]サトノルパン 【写真:乗峯栄一】
バラタナゴという魚のことを考えてみるといい。バラタナゴのオスは繁殖期になると、名前の通り、頬のあたりをバラ色に染め、純情ムードを出す。「あなたに発情してしまいました、恥ずかしい」と言い、ため池の底のイシ貝を囲って「これなんかどうでしょうか?」とバラ色の顔でメスをチラッと見る。メスは「もう、しょうがないわねえ」と言いながら近づき、オスが囲ったそのイシ貝の中に輸卵管を差し込んで大量の卵を出す。そのあとオスがそのイシ貝に輸精管を差し込んで精子を注入する。メスに追いついたオスは「今かけてきました、ドバッと、へへ」と頭を掻きながら報告する。
「バラタナゴのオスは頬を染めて純情だ」などというのは間違いだ。少しはイシ貝のことも考えてみろと言いたい。いきなり頭の上から管が入ってきて大量の卵を注入されたと思ったら、そのあとすぐに精子をドバッと送り込まれる。送り込まれても「いやいいです、大丈夫です、これ嫌いじゃないんです、ははは」とイシ貝は笑い、その受精卵が孵化するまで自分の貝殻の中で面倒をみる。
言ってみれば、自分の家にいきなり見知らぬ男女が入ってきてセックスを始め、どんどん腹が大きくなっていく女が「ああ、カキ氷が食べたいわ、わたしじゃないの、おなかのこの子が食べたいって言ってるのよ」などと好き勝手言う女のわがままを聞いてやり、無事出産を終えるまで面倒をみるというようなことだ。これが“イシ貝のプライバシー侵害”でなくて何だ。
ぼくは高校生の頃、隣の新婚奥さんが気になり、そこの家の前を通るたび牛乳入れを開け「あ、奥さん、今日も牛乳飲んだんだ、ヘヘ」と言って通り過ぎた。それだけのことだ。言ってみれば、隣の奥さんの健康チェックと言ってもいいぐらいの行為だ。でも近所では「エロ高校生」という評判が立った。悔しかった。隣の奥さんがイシ貝のように「わたしのこと調べたいの? しょうがないわねえ」と、一こと言えばそれで済んだんだ。
ああダメー、またわたしのこと見てるのね
うちのマンションの利益のための要求だ。それは重々分かっているが、管理組合理事などの交渉中、ぼくの頭には「ああダメー、またわたしのこと見てるのね、プライバシー侵害よ、ダメー」という女言葉の幻聴が響き続けて困った。あれは何なんだろう。
どうも「プライバシー侵害」という言葉は(ぼくだけかもしれないが)「許さない」と「ダメー、見ちゃイヤって言ってるのぃ」という言葉が一対になって出来ている気がする。