頂上への電車(ピークトラム)お静かに 「競馬巴投げ!第127回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

京大霊研がチンパンジーを研究するのは我々人間を観るためだ

[写真1]1年9カ月ぶりの勝利を前走で挙げたタガノエスプレッソ、この勢いを中京記念にもつなげるか 【写真:乗峯栄一】

 京大霊長類研究所が「チンパンジーがバナナ取るための棒っきれを仲間に貸すことがある」と報告していた。チンパンジーはあと百万年経てば「古生人類」ぐらいになるんだろう。つまり我々も南アフリカで直立歩行し始めた5百万年前「これ使っていいよ」と棒っきれを仲間に渡す先進的なヤツがいて「え、貸してくれんの? お前っていいヤツだなあ」と感激する直立猿人もいて「何か返さなきゃあな」などとも気を遣い、そういう「貸し出し」「感激」「返礼」が猿人を新生人類に推し進めたはずだ。

 つまり京大霊研がチンパンジーを研究するのは我々人間を観るためだ。

 火星や小惑星イトカワ行って岩石取ってくるのは地球を知るためだ。

 邪馬台国を探るのは今の日本国を知るためだ。

 背中が痒いと思っていきなり嫁にのしかかるのは子を産んで孫を作り、その孫の手で背中を掻かせるためだ(これは違うか)。

目の前の女が分からんと思ったら、まず動物の交尾を調べる

[写真2]末脚健在のダッシングブレイズ、鞍上ルメールはどう乗るか 【写真:乗峯栄一】

 つまりぼくがいつも思うのは「目の前にいる、この女の心が分からん」と思ったとき「何考えてんの?」と聞くのは愚の骨頂だということだ。そんなこと聞いたってヤツらは本当のことを言いはしない。目の前の女が分からんと思ったら、まず動物の交尾を調べる。なぜ目を閉じ、声を上げ、「すごーい」とまで言った女が「ごめんなさい、好きな人が出来たの」と言って口笛吹きながら出て行けるのか。「待て!」と叫ぶ前に「一体どの動物の交尾からメスは目を閉じ、声を上げ、歓喜の涙まで流すようになったんだろう」と調べねばならない。古来、男らしい男は皆そうしてきた。

 ムシの交尾ではオス・メスとも目を閉じない。マブタがないからだ。声もあげない。声なんかあげて重なっていたら、カエルやカメレオンや鳥たちがやってきて「一回で二度おいしい」などと微笑みながら二匹ともムシャムシャ食べてしまう。

 ハ虫類・鳥類・ホ乳類はマブタを持つが、交尾のとき「マブタが自然に下りちゃう」とメスが言う種は見あたらない。鳴き声も上げない。馬のメスなど「なーんもありゃしないわよ」と言い、舌なめずり一回して終わりだ。これでは精がない。精はないが、逆に言うと、心変わりもないとも言える。ウマのメスの場合、後ろにまわったオスを蹴り上げない限り「愛してる」という印なのだと解釈するしかない。

[写真3]昨年の中京記念3着ダローネガ、今年はどこまで食い込むか 【写真:乗峯栄一】

「草食動物は交尾中、敵から襲撃されやすいから」ということはあるかもしれない。しかし肉食獣でもマブタは閉じない。ただライオンやトラはメスが叫ぶ。でもガッと目を見開いたまま唸るから、気持ちいいから叫ぶのか、嫌だから叫ぶのか判別が難しい。人間のメスの場合はマブタを閉じ「イヤーン、ヤメテー」という場合はだいたいOK、目を見開いて、相手を睨み「イヤ、ヤメテ」という場合はNGとほぼ暗黙の了解が出来ているが、ライオンやトラのメスは尻をオスにあずけたまま、目を見開いて「グーォ」と唸る。決して甘い声は出さない。了解が難しい。

 ガラパゴスゾウガメはメスは知らん顔しているが、オスが長い首をもたげて「グォーッ」と叫ぶ。征服した喜びをオスが表現するということなのだろうか。ガラパゴスゾウガメは二百年も生きるというから、ひょっとしたら倦怠期、いわゆる「もう、飽きた」ということなのかもしれない。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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