安心せよ私だ、カンパニー弟を買いなさい 「競馬巴投げ!第131回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

イエスはパン5個で5千人を助けたらしいけど、あれどういうこと?

[写真1]エイシンヒカリ 【写真:乗峯栄一】

 チャイムが鳴って「隣のマンションの××号室の○○と申しますが、今この苦しい世の中において聖書に救いを求めませんか?」と言われる。家の近所の高山右近も伴天連(ばてれん)ゼウスに入信して秀吉からイジメられているし、聖書に興味もあるし「まあ何か、話をしてみるか?」という感じで玄関を開ける。

「聖書はお読みになられますか?」とおばちゃんが聞く。言っちゃあ何だが、かなり読んだ。「では聖書の中で疑問に思ったことはありませんか?」と聞く。疑問はある。「イエスはパン5個で5千人を助けたらしいけど、あれどういうこと?」と聞くと、おばちゃん驚きもせず「はい、では一緒にマルコ伝・第6章を読んでみまょう」と言い、聖書をこっちに渡し、自分も聖書を持ち「そこを声に出して読んでみてください」と言う。

「え? オレが読むの?」と言うと「はい」と普通に言う。

「えー、イエスは5つのパンを引き裂いて5千人の人々に渡すと皆満腹となった」と小さい声で読むと「ね?」とおばちゃんニッと笑う。

「これで真実だと分かりましたね?」

[写真2]アンビシャス 【写真:乗峯栄一】

「あのね、いや、そうじゃなくて、5個で5千人だよ、アドバルーンみたいなデカいパンか? しかもこの5個のパンは弟子たちが腰袋に入れてたんだよ、そんなデカい袋下げて人間が歩ける? 人の10倍はあるよ」とブツブツ言うが、おばちゃんは自信満々のまま「ほかに何か疑問はありますか?」などと言う。

「あるよ。いっぱい」

「どこですか?」

「嵐のガリラヤ湖を舟で渡る弟子達が立ち往生していると、陸地にいたイエスが湖を歩いてきて、弟子たちの舟に乗ると湖が凪(な)いだって、イエスは何? アヒルみたいにミズカキ付いてんの?」

「あ、同じ第6章ですね、ではそこを読んでみて下さい」

「え、また読むの? オレが?」

「はい」

「弟子達はイエスが湖の上を歩いているのを見て、みな胆をつぶした。しかしイエスは“安心せよ、わたしだ、怖がることはない”と言った」

「はい、これで真実だと分かりましたね」とまたおばちゃんニコニコだ。オレだってこれぐらいの字は読める、クッソーと思いながらドアを閉める。おばちゃんは何かの案内を渡そうとしていたが、怒りの玄関払いだ。

 しかし玄関ドアを背にして少し冷静になる。「安心せよ、わたしだ、怖がることはない」という、つまりこの言葉かもしれない。これまでの人生「誰やねん、お前、怪しいな」は結構使ったが「安心せよ、わたしだ、怖がることはない」は一度も使ったことがない気がする。

1/3ページ

著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント