スマートオーディンは風の神か 「競馬巴投げ!第123回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

ダービーと水沢競馬場

[写真1]リオンディーズ(中)、皐月賞と同じ轍は踏まないはず 【写真:乗峯栄一】

 ダービーが近づくと、なぜか岩手水沢競馬場のことを思う。

 といっても、ぼくは水沢競馬場で競馬を見たことがない。10年ぐらい前、盛岡競馬場で南部杯があって、その翌日、花巻からの帰りの飛行機が夕方だったので、とりあえず奥州藤原氏で栄え、源義経の最期や芭蕉でも有名な「平泉」に行ってみようと思いたつ。

 やっぱり岩手県は広い。「鈍行でゆっくり行こう」と考えたら、盛岡から平泉まで2時間ぐらいかかった。平泉もなかなかの所だった。「北上川、南部より流るる大河なり」という芭蕉の文章が思い出される高台が特によかった。つまり豪華な寺院にも感心したが、北上川に感動したと言ってもいい。

[写真2]マカヒキはダービーに向けさらに改良を加えてるに違いない 【写真:乗峯栄一】

 それから空港のある花巻に戻るのだが、途中に水沢競馬場がある。ここにどうしても寄りたい。生憎その日は競馬開催がないようだが、それでもいい。どんな競馬場かだけでも見ておきたい。

 タクシーに乗ると「え? 今日は競馬なかんべ?」などと驚かれる。「あ、いいんです」などと答えたが、このタクシーも5千円ぐらいかかった。競馬をやってない競馬場に5千円かけて行く、あの頃は裕福だったかなあ?

 田んぼ地帯の奥、北上川の堤防にぶち当たる手前、河原に広がる競馬場だった。もちろん誰もおらず、ただレースコースが広がるだけだ。深閑としている。向こう正面の北上川の土手に上がると、コスモスが一面に咲き、深いゆっくりした北上川の流れがあって、その向こうには丘陵地があり、さらにその向こうには既に雪をかぶった山地が見える。

「あれが宮澤賢治が風の又三郎と一緒に馬を追ったという種山ヶ原かなあ」などと呟く。

さて、水沢のダービー発売はどんなだろう

[写真3]重賞3勝スマートオーディンには底知れない強さを感じる 【写真:乗峯栄一】

 別にダービーの日に水沢競馬場に行った訳でもないのに、なぜ「ダービー→水沢」を連想するかというと、いまはダービーの馬券を売っているということを聞いたからだ。水沢競馬もやって、その馬券も売りながら、ダービーの発売もやっている。

 去年、秋天皇賞の日に高知競馬に行った。けっこうな群衆だった。昼間、コースで高知の馬が走っているのだが、この群衆、スタンド内のモニター画面から離れない。天皇賞に釘付けなのだ。そして天皇賞が終わると、あらかた帰っていく。天皇賞でやられて「クッソー、この悔しさを晴らさずにいられようか」という諦めの悪い百人ぐらいが残って、高知ナイターの7レース、8レースあたりをやるが、それもはかない夢と悟ると、バラバラと帰って、もう夜のスタンドには数えるぐらいしか客がいなくなる。

 水沢競馬場の建物は高知より小さい。周りの風景は高知より寂しい。さて、水沢のダービー発売はどんなだろう。その日の夜の水沢競馬はどうなんだろうと、それが気になる。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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