羽生、真央らも経験した有望新人合宿とは 日本がフィギュア大国となった秘密に迫る

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強化部長が語る野辺山合宿の目的

 フィギュアスケートの第25回全国有望新人発掘合宿が7月18日から25日にかけて長野県野辺山高原で行われた。通称「野辺山合宿」と呼ばれるこの合宿は、1998年の長野五輪に向けて選手強化を図る目的で92年からスタート。対象者はノービス(6月30日の時点で9歳から12歳)の選手で、全国各地から将来有望とされるスケーターが集められている。1年目には2006年トリノ五輪で日本フィギュア界に初の金メダルをもたらした荒川静香さんがおり、羽生結弦(ANA)や浅田真央(中京大)ら現在のトップスケーターたちのほとんどがこの合宿の経験者だ。

 期間中には氷上での演技やジャンプなどの技術面の練習に加え、陸上トレーニング、リズムと表現のチェック、身体能力を測るテストも実施する。ここで選考された優秀選手は、今年度の全日本ノービス選手権への推薦出場のみならず、全日本ジュニア強化合宿への参加(7月30日から8月2日、中京大学NTC)、国際競技会への出場、8月にスイスで行われるステファン・ランビエールが主催するサマーキャンプへの派遣も予定されており、子どもたちの競争心も煽られていた。

本田望結(右)らが野辺山合宿に参加。氷上練習に加え、陸上トレーニング、リズムと表現のチェック、身体能力測定などが行われた 【スポーツナビ】

 日本スケート連盟の小林芳子フィギュア強化部長は、野辺山合宿の狙いをこう語る。

「この時期に吸収するべきものを4年間通して吸収して、ジュニアに備えるということが意義として挙げられます。どのスポーツでもそうですが、体で覚えるという意味で一番スキルを吸収しやすいのは8歳から12歳です。それから体作りをして、スキルを高めていく。身体能力が高いこの時期に、いろいろなものを学んでもらうというのが目的です」

ランビエールが実感した選手たちの成長

 具体的には、どのようなトレーニングが行われているのか。報道陣に合宿が公開された24日は、子役としても活躍する本田望結(京都醍醐FSC)や昨年度の全日本ノービスAで5位に入った渡辺倫果(西武東伏見FSC)ら約70人が3つのグループに分かれて、それぞれの練習をこなした。

 氷上トレーニングを指導したのはランビエールだ。このトリノ五輪銀メダリストがまず行った練習は、スケートの基本となるカーブの動き。エッジをインとアウトに交互に倒すことで、きれいな曲線を描きながら進むよう指示をする。特に重要視したのが腰の使い方。足ではなく腰から力を伝えることで、よりスムーズな方向転換ができることを繰り返し説いていた。

 ジャンプの練習では入り方や着地のイメージを最初に植えつけてから、回転数と種類の難易度を徐々に上げていった。ランビエールがお手本を示しながら、6つのジャンプを選手たちに跳ばせていく。失敗した選手たちには声をかけるなどケアも欠かさない。

ランビエールが選手たちにお手本を見せる 【スポーツナビ】

 ここで問題となるのが言葉だが、今回は基本的に通訳が付いていなかった。ランビエールはすべて英語とジェスチャーで指導する。意図が伝わっていないときは手をたたきながら止めて、再び説明する。選手たちはこうした状況にも素早く適応し、言葉は分からないまでも、動きを見ることできちんと理解していた。ランビエールもその姿勢を称賛する。

「選手たちは僕のアドバイスを聞き、僕が要求したことを完璧に理解してくれた。感覚を伝えるのは、とても難しいことだと思う。僕は彼らと感覚を共有したいと思っていた。時に言葉の問題はあったけれど、選手たちは僕の目や動きを見てすぐに理解してくれた」

ランビエールから指導を受ける渡辺倫果(中央)ら 【スポーツナビ】

 練習終盤にはランビエールがスピンを実演。現役時代「世界一」と称されたその美しさには、選手たちからも拍手が巻き起こるほどだった。渡辺はランビエールの近くで練習することで、スピンを手取り足とり教わっていた。2年前にも野辺山合宿で今回の選手たちを指導したランビエールは、当時からの成長を実感したようだ。

「彼らを教えることができてとても満足だった。彼らのことを覚えていたし、どのくらい上達したのか見ることができた。美しいスケーターになっていたからうれしかったよ。彼らがこの2年間、どれだけハードな練習をしてきたのかが分かった。僕にとって感動的なのは、選手たちの名前や顔を知ることで、キャリアや競技会をフォローし、彼らが将来どのように成長していくかを見られることだ。ここから偉大なチャンピオンが生まれるだろう。僕はそう感じているよ」

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