敵はどしゃ降りだけ◎ドゥラメンテ=乗峯栄一の「競馬巴投げ!第98回」

乗峯栄一

園田のインディウム

[写真1]京都新聞杯が強かったサトノラーゼン、1枠1番を活かしたい 【写真:乗峯栄一】

 今年、園田競馬にインディウムという強い3歳馬が現れた。4月初旬、デビュー以来、破竹の7連勝で中央の皐月賞にあたる菊水賞を勝つ。兵庫ダービーは6月初めに行われるが、「園田三冠」というのは、菊水賞とダービーの間に兵庫チャンピオンシップという中央交流重賞を挟んでいる。これが難関だ。園田の馬はここ十数年、地元開催のこのチャンピオンシップで中央の馬に勝てていない(つまりここ十数年、園田三冠馬は出ていない)。

 しかし底知れないインディウムならという思いがあった。かつてのハイセイコーやオグリキャップのように、まあ、そういう芝巧者じゃなくても、アブクマポーロやメイセイオペラのようなダート戦で中央の馬を押さえ込むような、そんな突出した地方馬が園田から出ないものか。インディウムなら可能性があるのではないかという気がした。

 しかし甘くない。2勝クラスの中央馬に手もなく押さえ込まれ、インディウムは5着に沈んだ。中央と地方の実力格差は昔よりも広がっている。園田はもちろんだが、レベルが高いと言われる南関東の馬でも、中央のダート得意馬になかなか勝てなくなっている。血統の違いなのか、育成過程の差なのか、トレセン設備の差なのか、それらすべてを呼び込むのはたぶん賞金体系の違いなのだろうが、しかし賞金体系を上げるには馬券売り上げが伸びねばならない。でも競馬を見たい、馬券を買いたいというファンの思いは「強い馬」が出なければ増大しない。どこまでいってもジレンマは続く。

ハイセイコーより隣の奥さんの牛乳入れ

[写真2]キタサンブラックは皐月賞3着から逆転を狙う 【写真:乗峯栄一】

 しかしまったく関係ないところで、少し感慨をもった。4月初旬の菊水賞、断然人気のインディウムは単勝100円の元返し配当となった。いかに園田とはいえ、重賞競走で単勝100円というのは凄い。あのディープインパクトの日本ダービーでも単勝110円ついた。少しだけ、ハイセイコーの頃の競馬ブームを思い出した。

 あの頃ぼくはまだ高校生で、馬券も買ったことがなかった。でも何やら地方競馬からとんでもない馬が出てきて、ダービーだって優勝確実のような報道が続き、大変な盛り上がりだったことだけは覚えている。

 でもその頃のぼくの場合、関心の中心はハイセイコーより、アパートの隣の部屋の新婚の奥さんだった。とってもきれいで優しいひとだった。体育の授業の都合で柔道着を持って学校に行っていると「柔道部なのね」とにっこり微笑んでくる。「あ、いや、サッカー部です」と答えると「あ、そう。じゃ、柔道は趣味なのね」などと訳の分からないことを言ってくる。サッカー部なのに柔道を趣味にしている人間て、どんなんや!とツッコミたくなる。でも奥さんのブルーのニットの下に透けて見えるブラジャーの紐が口を閉じさせる。もう胸いっぱいだ。「スポーツ好きなのね」などと微笑んで追い打ちをかけてくる。何だ、何でそんなに挑発するんだ。それから、ぼくは毎朝、隣の部屋の前の牛乳入れを覗いて通学するのを習慣にした。「あ、奥さん、今朝も牛乳飲んだんだ」などと意味不明の微笑みを浮かべて学校に行くのである。

 ハイセイコーより隣の奥さん、隣の奥さんより隣の奥さんの牛乳入れと、興味の対象をより身近なものとして生きていくテクニックを高校生にして既に会得していた。

ハイセイコーのダービーを見て思ったこと

[写真3]福永祐一とリアルスティール、東京で再びドゥラメンテを撃破するか 【写真:乗峯栄一】

 でもあの1973年ダービー、ハイセイコーの単勝支持率が70%近く、配当が120円と聞いて、ある思いを抱いて見ていた。

(1)誰も買わない馬を買って、その馬が勝ってたくさんの配当を得る(大穴馬券を取る)

(2)誰もが買おうとする馬を自分も買うが、他の皆が急にその馬を買う気をなくして、たくさんの配当を得る(本命馬券を大穴馬券に変える)

(1)は可能だが(2)はどうして不可能だと考えるんだろう。

A.誰も見向きもしない隣の奥さんの牛乳入れを覗いて大きな満足を得る(ひとが気にしないもので大満足・大穴馬券)

B.誰もが「きれいだ」と言う奥さんが、突然ドアを開けて「いらっしゃい、いま主人いないから。前からあなたのこと好きだったのよ」と微笑む(本命馬券が身近に手に入る)

(1)(2)はABと言い換えられるんだなどと、ハイセイコーのダービーを見ながら、そんなことを考えていた。

1/3ページ

著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント