生涯一度の大駆け、◎バリアシオン=乗峯栄一の「競馬巴投げ!第97回」

乗峯栄一

どうにも収まりが悪いのが、この「デウス」

[写真1]武豊とキズナ、天皇賞の大一番で完全復活なるか 【写真:乗峯栄一】

 去年の皐月賞、ダービーではいいところがなかったが、古馬になって復帰すると、日経新春杯、日経賞と、まるで“日経新聞大好き”とアピールするように連勝しているのがアドマイヤデウスである。父アドマイヤドンはベガの子であり、ベガはトニービンの血を引いているから、長距離不向きということはないだろう。岩田康誠が乗るし、脅威の一頭であることは間違いない。

 しかしぼくの周りの競馬ファンの間で、どうにも収まりが悪いのが、この「デウス」という馬名である。

 学生の頃、初めて東京に住み、都電に乗ると「次はシガシ(東)池袋、シガシ池袋」とワンマン運転手が連呼するのでビックリしたことがある。一応電車のアナウンスだから、まあ一種の公共放送だろう。そこで「シガシ池袋」はいけないんじゃないの?などと首を傾げた。

 実は関西でも、和歌山訛りというのがあって、「ザ・ジ・ズ・ゼ・ゾ」が「ダ・ヂ・ヅ・デ・ド」になると言われている。「ジ・ズ」と「ヂ・ヅ」は現代では同じ発音だから問題ないが、たとえば「鼻の長いゾウさん」は「鼻の長いドウさん」に、「北島三郎ザチョウ(座長)公演」は「北島三郎ダチョウ公演」になると言われている。即座に「北島三郎は動物劇団やってんのか!」とツッコむのが、これまた関西流である。

「これだ」と強調する競馬仲間がいて「なるほど、そうだ」と何人かが頷く。「オーナーからアドマイヤ“ゼ”ウスで登録してきてくれと頼まれたマネージャーが和歌山県人だったんだ。JRAの登録所に行ってアドマイヤ“デ”ウスでお願いしますと言ってしまったんだ」と言うと、数人が「それは十分ありうる」と同調する。

「デウス」は神というより、神の使徒キリスト

[写真2]ゴールドシップと横山典弘、春の盾3度目の正直といきたいが 【写真:乗峯栄一】

 でも、たぶん「デウス」と「ゼウス」は違う単語だろう。ゼウスはギリシア神話の中の最高神だが、デウスはキリスト教系の神、それも特に戦国時代から江戸初期、日本で使われた「神」を表す単語ではないだろうか。

「以後よく(1549年)広まるキリスト教」から、秀吉、家康によって禁教とされ、隠れキリシタン、踏み絵、島原の乱へと続く日本耶蘇教(キリスト教)では、日本語としての発音の難しさや、隠語にして幕府の摘発を逃れないといけないなどの理由から、不思議な単語がいっぱいある。

 九州島原の代官は「こっそり隠れてデウスでん、拝んどるとではなかとか?」などと、薄ら笑いを浮かべながら村人たちに踏み絵を踏ませたと、よく言われる。この場合「デウス(Deus)はキリスト教的全能の神のポルトガル語(あるいはラテン語)で、具体的には旧約聖書ユダヤ神ヤーヴェ(あるいはヤハウェ、あるいはエホバ)を表す」などと説明される。しかしローマ教会に属するイエズス会の宣教師たちが「ヤーヴェ」を口にするのはおかしいし、大体キリスト教徒は「神さま」と言うより、まず「イエスさま」と言うだろう。「デウス」は神というより、神の使徒イエス・キリストを表すとみるべきなんじゃないだろうか。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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