「知られざる欧州組」の現在地

松木玖生、渡欧後初の独占インタビュー「どんな状況でも結果にこだわってA代表へ――」

土屋雅史

常に身体の芯から当てに行くことを意識

フィジカルの強さには定評のある松木だが、渡欧後はこれまで以上に身体の当て方を意識しているという。前線での起用が増えている中で目指すのは「7ゴール・7アシスト」 【Photo by Berkan Cetin/Anadolu via Getty Images】

――コンヤスポル戦の翌節、アウェイのベジクタシュ戦はスタメン出場して、コーナーキックからアシストも記録しましたが、セットプレーのキッカーも任されているんですね。

 キッカーもやりますけど、練習では中で合わせる役割の方が多いですね。あの時は試合の中で急に任された感じでしたけど、良いアシストができたと思います。

――ゴールを決めたコンヤスポル戦の後は2試合連続スタメン。しかし、そこからまたベンチスタートに戻った流れがありました。あそこで一気にスタメンを勝ち取りたかったですね。

 そうですね。あの2試合ではゴールチャンスもありましたし、もっと自信を持ってプレーできていれば、とは思います。ただ、今はその時のことを必要以上に考え過ぎることなくプレーできています。

――1ゴール・1アシストをマークした昨年末のカップ戦(トルコカップ5回戦のブカスポル戦)は、良いアピールになったのではないですか?

 そう思います。あの試合は久しぶりに90分間プレーしたので、試合感覚も少し取り戻すことができましたし、何よりそこで結果を残せたのは大きかったと思います。

――そう考えれば、高校時代から途中出場はほとんどなかったですよね。

 だから、最初はすごく難しかったです。なかなか今までの感覚にはなかったものでしたし、途中から入るからには流れも変えないといけないですからね。ただ、今は途中出場でもスタメンの時と同じように、結果を出すことだけを考えながらプレーしています。

――今シーズンのトルコリーグは、ガラタサライとフェネルバフチェが2強体制を築きつつありますが、年明けにはこの2チームとのアウェイゲームがありました。松木選手にとっても刺激的な体験になりましたか?

 ガラタサライは現在リーグでトップを走っているチームですけど、実力的にはまったく劣っていなかったと思いますし、勝てた試合でした(第18節/1-2の敗戦)。個の質や決め切る力の差で敗れたとはいえ、次は絶対に勝てる自信がチームにも自分にもあります。

――映像で見ましたが、スタジアムの雰囲気もすごかったですね。

 そうですね。ピッチ状態も最高でしたし、すごく楽しかったです。

――第21節で戦ったフェネルバフチェの2トップは、モロッコ代表のユセフ・エン=ネシリとボスニア・ヘルツェゴビナ代表のエディン・ジェコでした。ワールドクラスの選手たちを目の当たりにして感じたことはありましたか?

 堂々としているというか、オーラがありましたね。試合自体は前半の内容がすごく良かったので(1-0とリードして折り返す)、「このまま行けるんじゃないか」と思ったんですけど、後半の頭に(アラン・)サン=マクシマン選手が左サイドに入ってから流れが大きく変わって、立て続けに3失点してしまいました(最終スコアは2-3)。その時に、世界のトップレベルの選手が1人入っただけで流れが大きく変わることを実感しましたし、自分もそういう存在にならないといけないなと思いました。

――トップレベルを肌で感じられる環境が、成長の糧になりそうですね。

 世界的に見れば21歳はもう若くはないですし、そういう選手たちに負けないように、自分ももっと成長していきたいですね。

――トルコリーグ自体の特徴はどのように捉えていますか?

 フィジカルレベルの高さは感じています。自分もJリーグ時代から相当フィジカルの強化を重視していましたが、ここでは身体が強いのは当たり前で、その中で何ができるかが大事だなと思いました。

――トルコに来てから、より意識しているプレーはどういうところですか?

 身体の当て方ですね。常に身体の芯から相手に当てに行かないと、自分の身体がブレてしまうので、こちらに来てから、そこをより強く意識するようになりました。普段の練習からバチバチやれていますし、1対1の局面での身体の使い方は常に意識しています。

――筋トレで身体を強くすればいい、という単純な話ではないですよね?

 はい。筋トレだけでは限界があるので、試合や練習から(身体の使い方を)肌で感じながらやっていくことが一番なのかなと思います。

――逆に、トルコリーグでも十分に通用すると感じた自身のストロングポイントはどういうところですか?

 前への推進力と、続けてプレーできるところですね。海外の選手はパスを出して、そのまま次のプレーを見ていることが多いですけど、連続して次のプレーに続けられるところは強みだと思います。あとはゲームメイクに関しても通用するなと。そこからドリブルで仕掛けてシュートを打つなど、(フィニッシュに関与する)自分の形を持つことができれば、さらに成長できると思います。

――いわゆる連続性は日本人選手の特徴とも言われていますが、そこは活かしていくべきだというイメージですか?

 そう思いますね。海外ではより1対1の強さが求められますし、前目の選手に関しては、まずは1対1で相手ディフェンダーに勝てるかどうかが問われる中で、自分はいかに数的優位を作るかを考えながら、周りの選手と関わっていくことが大事だと思っています。

――すでに後半戦に入っていますが、残りのシーズンで成し遂げたいことは何でしょうか?

 背番号も7番なので、「7ゴール・7アシスト」を目指してやっていきたいですし、チームとしてはより上の順位を狙いたいですね。

――以前からサッカー選手としての最大の目標は「チャンピオンズリーグで優勝すること」だと話していましたが、実際にチャンピオンズリーグに出場しているようなチームや選手と対戦することで、その目標に近づきつつある感覚はありますか?

 そうですね。まずこうやって海外に来ることで、日本にいてはできない経験ができていますし、その中でもより違いを作れる選手になれるように、もっと自分自身を磨いていかないといけないなと思っています。

僕らの世代が結果を残して代表を強くする

欧州移籍のタイミングと重なり、パリ五輪出場はならなかったが、昨年のU23アジアカップ制覇に尽力するなどこの世代のリーダー格だった松木。目標はもちろんA代表だ 【Photo by Koji Watanabe/Getty Images】

――ところで、パリ・オリンピックの日本代表の試合は見ていましたか?

 フルでは見られませんでしたが、ハイライトでは見ました。

――その時の率直な想いはいかがでしたか?

 もちろんオリンピックに出たかったという想いもありますけど、自分の一番のステップアップは、ヨーロッパのクラブに移籍して結果を出すことだと思ったので、悔しさはありながらも試合自体は楽しんで見ていました。

――準々決勝のスペイン戦はかなり厳しいゲーム(0-3で敗戦)になりましたが、一緒に活動してきたチームメイトたちの姿はどのように映っていましたか?

 自分もパリ・オリンピックを目指す代表チームのメンバーにずっと入っていたので、スペインにも「勝ってほしいな」とは思っていました。ただ、結果的に敗れはしましたけど、世界のトップのレベルはそんなに甘くないということを肌で感じられたと思いますし、これから自分たちの年代がもっとA代表に絡んでいけるように頑張らなくてはいけないと、僕も含めてみんなが改めて感じたと思います。

――23年のU-20ワールドカップにも一緒に出場したチェイス・アンリ選手(シュツットガルト)や佐野航大選手(NEC)など、ヨーロッパでプレーする同世代の選手が増えてきましたが、彼らは松木選手にとってどういう存在ですか?

 彼らの試合結果はいつも追いかけていますし、特にチェイス・アンリとは普段から電話やLINEでよく連絡を取り合っています。彼からはチャンピオンズリーグでプレーした話も聞きましたけど、そうした同世代の活躍から多くの刺激をもらっています。

――彼らと直接会うような時間はないですか?

 2、3日のオフがないとなかなか他のヨーロッパの国には行けないので、あまり頻繁には行けないですけど、この間ドイツに行った時は航大が会いに来てくれました。あれは相当嬉しかったですね。もうずっと一緒にやってきた仲間なので、いろんなことを語り合えるのが楽しいんです。

――ちなみにトルコ以外の海外リーグもよくご覧になるんですか?

 プレミアリーグも含めて、いろいろな国のリーグを見ています。もちろんプレミアリーグは自分が目標とするところですし、将来そこに行くために、海外挑戦1年目の今は土台作りをしているイメージですね。

――今、注目している選手はいますか?

 ニューカッスルのサンドロ・トナーリ(イタリア代表MF)ですね。華があるプレーがいいなって。ニューカッスルはサッカーのスタイル自体がけっこう好きなんです。

――ひと昔前と比べて、日本からヨーロッパに渡る選手が格段に増えました。そうした時代のど真ん中にいることに対して、何か思うことはありますか?

 自分はこれが普通だと思っていますし、日本サッカーの発展を考えれば、もっと僕らの世代が海外で結果を残して、日本代表を強くしていかなければいけないと思いますし、そこ(日本代表)に自分も入っていけるように、まずはトルコで活躍するだけです。

――A代表に入っていくために、あるいは継続的に呼ばれるために、ここから必要になってくることは何だと思いますか?

 どんな状況に置かれても結果を残すことです。自分はボランチから前のポジションならどこでもできますけど、たとえ本職でなくてもとにかく結果にこだわってやっていかなければならないですし、今のA代表はすごくハイレベルな環境なので、そこに食らい付いていけるようなクオリティを身に付けていくことが大事だと思います。

――日本代表のボランチは遠藤航選手(リバプール)、守田英正選手(スポルティング)という、ヨーロッパでもトップレベルのクラブでプレーしている選手がレギュラーポジションを掴んでいます。松木選手はボランチとして、このハイレベルな定位置争いに食い込んでいきたいですか?

 はい、ボランチでやっていきたいです。ただ、今はフォワードで試合に出ているので(笑)、正直そこに食い込んでいくイメージはなかなか持てていないんですよね。点を取ることをより意識してプレーしていますし、今は置かれた状況で最善を尽くすことだけを考えています。

――U-20ワールドカップでもチームメイトだった、1つ年下の高井幸大選手(川崎フロンターレ)がA代表デビューを果たしましたが、刺激になっていますか?

 年代別代表からずっと一緒にやってきた選手ですからね。彼も相当クオリティが高いので、自分も負けないようにやっていきたいです。

――半年間トルコでプレーしてみて、自身のサッカー選手としての未来が、今まで以上にクリアに見えてきたところはありますか?

 目標に向かってステップアップできている実感がありますし、その中で成長できているという手応えもあります。でも、世界のトップレベルになるためには、まだ足りないところも多くあるので、そこをしっかりと求めていきたいと思います。

――では最後に、松木選手の活躍を楽しみにしている日本のファンにメッセージをお願いします。

 こちらに来て日本のメディアの取材を受けたのは今回が初めてですし、自分の現状はあまり伝わっていないかもしれませんが、これから日本のみなさんに良いニュースを届けられるように、まずはギョズテペでしっかりと結果を残していきたいですね。まだまだ成長していかなければいけないですけど、温かく見守っていただければと思っています。

(企画・編集/YOJI-GEN)

松木玖生(まつき・くりゅう)

2003年4月30日生まれ、北海道室蘭市出身。室蘭大沢FCから青森山田中、青森山田高に進学。全国高校サッカー選手権には高校1年時から出場し、3年時に優勝。22年に加入したFC東京では高卒ルーキーながら開幕スタメンに抜てきされると、強靭なフィジカルを武器にボランチ、インサイドハーフをメインに、1年目から主軸を担った。24年シーズンには21歳にしてキャプテンも任されている。24年7月、プレミアリーグのサウサンプトンに完全移籍。24-25シーズンはレンタル先のトルコのギョズテペでプレーし、昨年11月末のコンヤスポル戦で移籍後初ゴールも挙げた。昨年はU-23日本代表としてU23アジアカップを制覇。

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著者プロフィール

1979年8月18日生まれ、群馬県出身。高崎高3年時にインターハイでベスト8に入り、大会優秀選手に選出される。2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。サッカー情報番組『Foot!』やJリーグ中継のディレクター、プロデューサーを務めた。21年にジェイ・スポーツを退社し、フリーに。現在もJリーグや高校サッカーを中心に、精力的に取材活動を続けている。近著に『高校サッカー 新時代を戦う監督たち』(東洋館出版社)がある。

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