4年半前の傷口をふさいだバルサの若手たち その輪から弾かれた久保と同世代の“神童3人組”アンスとエリックの今
ピッチを離れても仲が良かった3人
21-22シーズン、長期離脱からの復帰初戦でゴールを決めたA・ファティを祝福するE・ガルシア(24番)。久保も含めた同世代の3人は、今も強い絆で結ばれている 【Photo by David S. Bustamante/Soccrates/Getty Images】
21年の夏にメッシがパリ・サンジェルマンへと去った後、彼の「10番」を引き継いだのが、A・ファティだった。
実を言えば、メッシが退団してから少なくとも1シーズンは、このレジェンドに敬意を払い、「10番」を欠番にするのではないかという噂が、当時のバルサ界隈ではまことしやかに囁かれていた。しかし、メッシの痕跡を1日も早く消すことが大事だと判断したジョアン・ラポルタ会長の指示もあって、A・ファティにエースナンバーが渡ったという経緯がある。
もちろん、それだけの才能がA・ファティにはあった。19歳になる前までにメッシがバルサのトップチームで挙げたゴールが「8」だったのに対し、A・ファティはほぼ倍にあたる「15」。ラ・マシアに入団当時からそのポテンシャルは傑出しており、誰もがサッカー界の将来を担う選手になると信じて疑わなかった。だからこそ、左膝の半月板損傷で離脱中だったにもかかわらず、バルサの首脳陣は当時まだ18歳の若武者に「10番」を託したのだ。
A・ファティと言えば、ラ・マシア時代に久保建英と前線で強力デュオを形成し、ゴールを量産したことは日本でもよく知られているだろう。29試合で2人合わせて129ゴール(久保が73ゴール、A・ファティが56ゴール)を叩き出したシーズンは、今もバルサ・ファンの間で語り草だ。
A・ファティと久保に、エリック・ガルシアを加えた同世代の3人は、ピッチを離れても仲が良かった。E・ガルシアと久保は家族ぐるみで付き合いがあり、まだスペインでの生活に不慣れな久保を、弟の瑛史(現在はレアル・ソシエダのフベニール=17~19歳のカテゴリーに在籍)とともに遠征先の試合会場に連れて行くのは、決まってE・ガルシアの家族だったという。
カンテラ(下部組織)時代はキャプテンを務めるなど、もともとリーダーシップに優れていたE・ガルシアは、日頃から久保兄弟の面倒をよく見ていた。久保自身も「スペイン代表に友人はいるか?」と聞かれた際に、「アンスとエリック」と即答。今でも頻繁に連絡を取る間柄であると明かしている。
昨年末からの鬱憤を晴らす決勝ゴール
公式戦2戦連続でスタメンを外れた悔しさを晴らすように、19節ビジャレアル戦で決勝点を奪った久保。現在は不遇のA・ファティとE・ガルシアの反発力にも期待したい 【Photo by Ion Alcoba Beitia/Getty Images】
A・ファティとE・ガルシアは昨シーズン、それぞれブライトンとジローナにレンタル移籍し、今シーズンから古巣バルサに復帰したが、現時点でどちらもフリック監督の構想には入っていない。
度重なる怪我に苦しんできたA・ファティは、昨年12月の時点で全ての負傷から完全に回復したと医師から診断されたものの、鮮烈なデビューを飾った10代の頃の輝きをなかなか取り戻せずにいる。この冬にもバルサから放出される可能性があり、セビージャとベティスが有力な移籍先の候補に挙がっている。
E・ガルシアもフリックから信頼を寄せられているとは言い難く、センターバックとアンカーをこなせるマルチにも関わらず、プレー機会は限定的だ。スーパーカップ決勝も90分間ベンチを温め続けた。彼の場合は冬の移籍マーケットで再びジローナに戻ることになるかもしれない。
3人の中では、ソシエダの中心選手となった久保だけが唯一スタメンの座をほぼ確保しているが、ただそんな彼の周辺も昨年末あたりから騒がしい状態が続いている。ソシエダを出て行くのではないかという噂が後を絶たず、毎週のように移籍先候補としてビッグクラブの名前が取り沙汰されている。
これには、イマノル・アルグアシル監督の去就問題も影響しているだろう。ソシエダとの現行契約が切れるまで残り半年を切っても、アルグアシルはいまだに契約延長のオファーにサインしていないのだ。久保自身は、今後もソシエダの主軸として活躍したいと意欲を示しているが、仮に監督交代となればチーム内での立場が一変する可能性も否定できない。
24年のラストゲーム、年明け初戦のスペイン国王杯と2戦連続でスタメンを外され、物議を醸したこともあったが、アルグシアル監督との信頼関係は揺らいでいない。1月13日のビジャレアル戦(ラ・リーガ第19節)でスタメンに返り咲いた久保は、年末からの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのようにさっそく見事な個人技から決勝ゴールを奪い、今シーズン5度目のマッチMVPにも輝いている。
「(アルグアシル)監督にも言われたけれど、もっとゴールを決めなければいけない」
昨年11月の決意表明から2カ月。本格的にエンジンがかかってきた久保が、周囲の雑音を打ち消すように、ここからさらにアクセルを踏み込んでいきそうな気配がある。
一方で、大きな怪我を乗り越え、ピッチに戻ってきたA・ファティ、レンタル先のジローナで逞しさを増し、バルサ復帰を果たしたE・ガルシアにも、ピンチをチャンスに、悔しさをパワーに変える反発力とポテンシャルが間違いなくあるはずだ。
同じくラ・マシアの神童と呼ばれていたアンドレス・イニエスタは、20代半ばで度重なる重度の怪我、さらには鬱病を乗り越え、真のワールドクラスへと羽ばたいていった。フィジカルやテクニックと同じように、立ちはだかる壁を打ち破る力もまたプロフットボーラーに求められる才能の1つなのだ。現在24歳のE・ガルシア、23歳の久保、そして22歳のA・ファティ。かつてラ・マシアで同じ時代を過ごした“神童3人組”にも、輝かしい未来が待っていると信じている。
(企画・編集/YOJI-GEN)