現地記者の日本人選手ラ・リーガ奮戦記(月2回更新)

4年半前の傷口をふさいだバルサの若手たち その輪から弾かれた久保と同世代の“神童3人組”アンスとエリックの今

山本美智子

スペイン・スーパーカップ決勝は、バルサが先制を許しながらも大量5ゴールを奪って宿敵マドリーを粉砕。5年前の悲劇を忘れさせる快勝だった 【Photo by Ismael Adnan Yaqoob/Anadolu via Getty Images】

 スペイン在住がすでに25年以上に及ぶ日本人ライターによる、月2回の連載コラム。レアル・ソシエダで3年目のシーズンを迎えた久保建英と、今シーズンからマジョルカでプレーする浅野拓磨の動向を中心に、文化的・歴史的な背景も踏まえながら“ラ・リーガの今”をお届けする。第6回目はバルセロナをピックアップ。スペイン・スーパーカップ決勝で宿敵レアル・マドリーを撃破したチームには若い才能がきらめくが、蚊帳の外に置かれてしまったのが、久保と“ラ・マシア”(バルサの下部組織の総称)で同じ時代を過ごしたアンス・ファティとエリック・ガルシアだ。

近代バルサ史における悲劇の1つ

 2020年8月14日のチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝。バルセロナが、当時ハンジ・フリックが率いていたバイエルン・ミュンヘンに2-8で大敗した試合は、近年のバルサ史における悲劇の1つに数えられている。

 キケ・セティエン監督のチームには、リオネル・メッシをはじめ、ルイス・スアレス、セルヒオ・ブスケッツ、ジェラール・ピケ、ジョルディ・アルバら錚々たる顔ぶれが揃っていたが、それでもバイエルンの前にバルサは手も足も出なかった。まるで大人のチームを相手に必死にプレーする小学生チームのように、ひたすら翻弄(ほんろう)された。

 バルサが5得点以上の大差をつけられて敗れたのは、1946年のサッカー総統杯(コパ・ヘネラリッシモ)のラウンド16でセビージャに1-8で屈して以来、実に69年ぶりの出来事だった。

 コロナ禍に見舞われたこの19-20シーズンのCLは、ベスト8以降がポルトガル・リスボンでの集中開催。ホームで戦えなかった、無観客試合でファンの後押しがなかったといった言い訳を並べ立てたくもなるが、条件はどこも同じだ。バルサ・サポーターにとってはおよそ容認できる結果ではなく、この歴史的大敗は彼らの心に深い傷を残すことになった。

負の記憶を消し去った若者たち

逆転劇の口火を切ったのが、得意のカットインから同点弾を決めた17歳のヤマル(左)だった。彼を筆頭とする若いタレントたちが長く刺さったままだった棘を抜いた 【250115_ws_laligacontents_supercopa2025final_02】

 あれから4年半が経ち、バルサは大きく様変わりした。その間に“生ける伝説”メッシと、彼を支え続けたメンバーたちが次々と去って行くなかでチームは再編成され、今やあのバイエルン戦を知る者は数えるほどになっている。

 当時のスタメンで現在もチームにとどまっているのは、守護神マルク=アンドレ・テア・シュテーゲンとMFのフレンキー・デ・ヨングのみ。GKイニャキ・ペーニャ、DFロナルド・アラウホ、FWアンス・ファティのベンチ入りメンバーを合わせても5人しかいない。

 時の流れとは恐ろしいものだ。当時バイエルンの前線をけん引していたロベルト・レバンドフスキが今ではバルサの「9番」を背負い、昨年7月からはかつての敵将フリックが“アスルグラナ”のベンチを預かっている。

 そして、迎えた2025年1月12日。監督就任からわずか半年で、フリックはバルサでの初タイトルを手にする。レアル・マドリーとのエル・クラシコとなったスペイン・スーパーカップ決勝で、バルサは宿敵を5-2というスコアで粉砕。その圧勝劇によって得られたのは、4年半前とは舞台も対戦相手も異なるとはいえ、ようやく背中に刺さったままだった棘(とげ)が抜けたような感触だった。

 傷口はいつか自然とふさがれるものだが、それが深ければ深いほど、かさぶたができるまでには時間がかかるものだ。

 今回、4年半の歳月を経て、ついに負の記憶を消し去ったのは、17歳のラミン・ヤマルとパウ・クバルシ、20歳のガビ、21歳のアレハンドロ・バルデ、マルク・カサド、フェルミン・ロペス、そして22歳のペドリといった、あの悲劇のことなどほとんど知らない若者たちが中心のチームだった。

1/2ページ

著者プロフィール

スペイン在住は四半世紀超え。1998年から通信員として情報発信を始め、スペインサッカーに関する取材、執筆、翻訳の仕事に従事してきた。2002年と06年のW杯、04年と08年のEUROなど国際大会も現地で取材。12年からFCバルセロナの公式サイト、ソーシャルメディアを担当する

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント