「河村効果」もあった逸材の千葉J入り “原点”を知る指導者が語った東山高・瀬川琉久の強み

大島和人

瀬川の「体幹」が強みになった背景

本間雄二コーチ(写真中央)は小中と瀬川の成長を見守ってきた 【写真提供:日本バスケットボール協会】

 ゴッドドアは結果的に全国制覇を達成したとはいえ「成功より成長」を強調し、長期的な視点で選手と関わるチームだ。魚崎ミニバスとつながりがあり、本間雄二ヘッドコーチは両チームの指導者を兼任している。注意深い読者なら既にお気づきかもしれないがチーム名は「神戸」(神=ゴッド/戸=ドア)にちなんでいる。

 本間コーチは瀬川との縁をこう振り返る。

「3歳4歳くらいからの付き合いです。彼の父が魚崎ミニのスタッフで、お兄さんが先に入って、彼は弟としてついてきていました」

 彼らが重視しているのが「BCエクササイズ」というメニュー。「身体の内圧を高めて、外の力感を抜く」コンセプトで、そこが体幹の強さにつながる。本間コーチが「2時間の練習であろうが、3時間の練習であろうが、40〜50分ずっと無言でやっています」と説明する、ボールを使わない基礎練習だ。

 現在開催中の第5回Jr.ウインターカップにもゴッドドアは出場しているが、選手たちは試合前のウォーミングアップとしてBCエクササイズに取り組んでいた。メニューには様々なバリエーションがあり、体幹トレーニングのようでも、ストレッチのようでも、ヨガのようでもある。

 バスケットボールは不可避的にコンタクトが伴い、さらにシュートやリバウンドといった重要なプレーは足を地面から離した状態で行われる。となれば「軸をブレさせずにプレーする」ことは決定的に大切だ。

 例えばジャンプショットは瀬川の強みだが、無駄な力が入らず背筋の伸びた美しいフォームがその質を上げている。

 本間コーチに瀬川の強みを尋ねると、池内GMとは違う視点で、このような答えが返ってきた。

「僕らスタッフは優勝するための準備をしますけど、不安になったり、『どうかな?』と思ったりします。でも3年前はあの子を中心に『絶対に優勝する』『そのためにはこうしよう』という状態になって、選手たちがブレずにやり続けていました。それに僕らも吸い込まれていったのかなと思っています。東山の3年間の言動・行動・態度を含めて、彼は信念を持ってやり通す、きちっとやり続けるところが特別です」

逸材が高卒でBリーグに挑戦する意味

フォーム、姿勢の美しさは瀬川の特徴 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 河村は東海大入学の直前に特別指定選手として三遠ネオフェニックスに加わり、18歳でいきなり主力級のパフォーマンスを見せた。千葉JはB1の強豪で、富樫勇樹を筆頭に選手のレベルも高く、当時の三遠に比べるとプレータイム確保の壁は高い。コンディションを保ち、戦術を理解し、試合に「出続ける」ことも当然ながら容易ではない。

 もっとも今の瀬川にとって大切なのは目先の成功より、成長かもしれない。河村は福岡第一高卒業からNBA入りまでの5年間で、見違えるほど身体がたくましくなった。しかし筋肉の出力が上がる、腕が太くなる過程で、3ポイントシュートの成功率低下に苦しんだ時期もある。

 瀬川もこれから挫折、試練を経験はするだろう。それを乗り越えるには「やり通す」しかないし、そんなマインドセットが彼にはある。

 瀬川はバスケに取り組む姿勢が真摯で、練習にも積極的に取り組むタイプ。千葉Jは練習環境もB1最高レベルで、トレーナーやメディカルなどのスタッフも手厚い。試合に出る、出ないに関係なく成長のための手がかりは揃っている。

 若き逸材にとってアメリカ留学は間違いなく魅力的な選択肢で、八村塁や渡邊雄太のような成功例も増えている。ただアメリカで苦しんでいる、期待通りに成長できなかった選手も当然いる。Bリーグが18歳の青年にとって「NBA行き」「日本代表行き」の現実的なルートになる意義は大きい。

 「国内の育成環境を引き上げる」「成長の遅さを克服する」ことはBリーグのみならず日本バスケにとって急務。千葉Jがそのテーマに正面から挑戦したことも歓迎したい。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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