氷上で大の字になった鍵山優真「すごく気持ち良くて」 荒れた全日本選手権で新時代の王者に
演技後に氷の上で大の字になった鍵山優真。ショートのミスを乗り越え、日本の頂点に立った 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】
ノーミスがよぎりミスしたアクセル
「昌磨さんのやつを見て、最終滑走でいい演技したら、ちょっとやってみたかったんですよ」
鍵山が言及したのは、さいたまスーパーアリーナで開催された2023年世界選手権で連覇を果たした宇野昌磨が、フリーの演技後に氷上で仰向けになった場面だと思われる。
全日本選手権の男子シングルでは、2012年から宇野が連覇を果たした昨年まで12年間の長きにわたり、羽生結弦か宇野が金メダルをとり続けてきた。今季を前に宇野が引退して迎えた今大会は、新時代の全日本王者が決まる重みを持つ試合だった。
そのプレッシャーが影響したのか、男子シングルはショート・フリーともに荒れた展開となった。一年前の全日本選手権では素晴らしい演技を披露した実力者たちが、信じられないようなミスを連発。その中で、ショート・フリーともに1位で完全優勝を果たしたのが鍵山だった。
とはいえ、グランプリ(以下GP)ファイナル(12月上旬・フランス)で銀メダルを獲得し、最有力の優勝候補として今大会に臨んだ鍵山にも、重圧はのしかかっていたはずだ。ショートでは、最後のジャンプとなるトリプルアクセルで、見慣れないかたちで転倒をしている。
「『思いっきりやろう』と最初から思っていったんですけれども、アクセルは『ちょっといつもよりスピードが足りないかな』と思いました。4回転2本はしっかりと決まったからこそ、もっともっと思い切り最後までやるべきだなと思いました」
「4回転2本降りたときは『いける』とは思っていなくて、『冷静にやろう』とだけ思っていましたけれども…ノーミスがよぎってグッと力が入ってしまったのか、アクセルがちょっと変な感じになってしまった。そこは明日(のフリーで)、もっと思い切りやれればいいなと思います」
ミスを最小限に抑え、情熱的な表現をみせた鍵山のフリー 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】
鍵山は、父である正和コーチから「全力で戦ってこい」と送り出されてリンクに入った。多くのスケーターが崩れていく異様な試合展開を「多分やつもそうなんですけど、僕もまったく見ていないので」と正和コーチは言う。
「周りがどういうふうになっていたのかというのは全然知らなくて、なので意識としては自分のやるべきことだけに集中してもらって、出ていかせましたね」(正和コーチ)
鍵山はフリー冒頭、今季の課題であった4回転フリップを、GPファイナルに続き成功させる。続いてファイナルでは2回転になってしまった4回転サルコウに挑み、今回はきれいに回り切った。
後半に入ると4回転トウループでステップアウト、3回転フリップ+ダブルアクセルでは着氷の際にフリーレッグが氷をかすったものの、大きなミスなくプログラムをまとめた。終盤では、フラメンコの激しいリズムを卓越したスケーティングと上半身の所作で表現し、新時代の王者にふさわしい熱演をみせた。
キスアンドクライで愛息の優勝を知った正和コーチは、涙していた。
「ずっと泣きじゃくっていた。言葉にならなかったですね」
1991年から全日本を3連覇した経験のある正和コーチは、「僕自身がこの試合にずっとかけてきた」という。
「僕の中では、本当に一番重い試合で。やっぱりこれ(全日本のタイトル)を持っているか・持っていないかで、世界のトップを狙う・狙わないというのは、多分言葉の重みも違ってくると思うので」
「『親子二代で』ということではなくて、やっぱり世界を狙っていく上でのステップとしてこれは持っておかなければいけないものだと僕はずっと思っていたから、よかったです」