三浦佳生単独インタビュー 五輪プレシーズン、目指すのは“じっくり見せるスケート”と“安定感”

沢田聡子

充実したオフを過ごした三浦佳生が単独インタビューに応じてくれた 【スポーツナビ】

 ジュニア時代から豪快なジャンプで知られ、2022-23シーズンには世界ジュニア選手権と四大陸選手権で優勝した三浦佳生。昨季は、2年連続となるグランプリファイナル進出を果たし、世界選手権にも初出場と実績を残した。多くのアイスショーに出演し、充実したオフを送った三浦に、話を聞いた。(取材日:9月4日)

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ジャンプ7本に構成を変更した『シェルブールの雨傘』

――「フレンズオンアイス」で披露したフリー『シェルブールの雨傘』は、プログラムをかなり変更したようですね。(注:フリーでのジャンプを従来の7つから6つに減らすルール改正が検討されていたため、三浦は当初ジャンプ6つの構成でフリーを制作。しかし6月に行われた国際スケート連盟総会で2026-27シーズンからの導入が決まった)

 ジャンプ7つをよりよく配置させるとなると、やはりプログラムの形を一回壊さなくてはいけなくて、それが大変ではありました。曲の中盤から編集も変えて、プログラムを新しく作った感じになりますね。冒頭で新たに入った雨の音は、元々自分が入れたくて、シェイ=リーンさんのところで編集して入れてもらいました。

――(フリーの振付を担当した)シェイ=リーン・ボーンさんとはリモートでやりとりしたそうですが、今回「フレンズオンアイス」に出演されていましたね。

 ショー期間中も、プログラムの配置を微妙に変えたりするアドバイスを直接してもらえて、すごく良かったです。

――昨季のプログラム『進撃の巨人』では、三浦選手のいい部分が出ていたと思います。ただご本人としては、PCS(演技構成点)を上げるために今季はしっとりした『シェルブールの雨傘』を選んだという解釈でよろしいでしょうか?

 しっとりした曲なら、絶対にPCSが出るわけではないのですが……昨季のプログラムを1シーズン滑って、アプローチの仕方としては全然悪くなかったと思うのですが、ただ編曲から常にガツガツしすぎていた部分もあって、スケートを見せていくところがあまりなかった。「やっぱりもうちょっと、スケートをじっくり見せたいな」と思ったのが一番です。シェイ=リーンさんも「そうだよね」という感じで、お互い解釈が一致して、今回こういったプログラムを創ろうという感じになりました。

プリンスアイスカップの男子SPで演技する三浦佳生 【写真は共同】

――ブノワ・リショーさんが振り付けた新しいショートは、近未来的でクールですね。

「地球に飽きてしまって宇宙に冒険に出る」というテーマらしいんですけど、なかなかやっぱり解釈が難しくて。最初は「何を言っているんだろう?」と思っていたんですけど、今は自分なりに解釈して滑っている感じです。

――ブノワさんの振付は難しいことで有名ですね。

 やっぱりテーマから難しさがあって、いい意味で独特な、ブノワさんらしさが出ているプログラムになっていると思います。僕以外にもいろいろな選手を振り付けていますが、選手の個性を出そうという意図も見えて、1シーズン1シーズンの戦略もブノワさんの頭の中にはあって。すごく不思議な中に芯があって、選手の個性を引き出すのが上手な方です。

――ブノワさんの厳しい振付に取り組んでいるうちに表現力が上がってくることは坂本花織選手を見ていても分かりますが、三浦選手もそういう手応えを感じていますか?

 そうですね、やはりなかなかいないタイプの振付師さんなので、アプローチの仕方の幅も増えましたし、その中で自分らしさというのも消さずにいられる。同じ振付師のプログラムでもみんな違って見えるというのも、またブノワさんの良さでもあるので、自分もそういったアプローチの仕方がうまくなった感じがします。

――ブノワさんに「自分のこの部分の良さを伸ばしたい」というようなお話をされたことはありますか?

 そういう話はしたことはないのですが、ただブノワさんの振付はコンテンポラリー要素が多いので、「自分の良さであるスピードが消えてしまうのではないか」という心配はありました。でもそのスピードを逆に引き出して振付して下さったので、「やっぱりすごくうまいな」となりましたね。

――オフにダンスを習ったそうですね。

 いろいろなジャンルに手をつけてみたのですが、ヒップホップからバレエまで、本当にいろいろな種類があって。自分の中で視野が広がったというか、自分の中で固まっていた表現の幅、世界が一気に広がった感じがします。ヒップホップはあまり苦手ではなく、やっていて面白かったですね。

――表現の強弱を重視しているそうですが、それは今季のプログラムでも考えていますか?

 昨季の競技プログラムを見ていても、やはり“強”が強くなってしまう。どうしても100%で動いてしまうのが自分の元からの癖で、それをなくそうという意味でも、今シーズンそういった取り組みをしているので。その成果が今になって徐々に出てきていて、シーズンが始まる前に振付した段階に比べたら、かなり動きもよくなっています。多分このフリーじゃなくても、そうした動きがちょっとずつできるようになってきているなという印象ではあります。

――体力的に、脱力する部分があるとジャンプに好影響があるのでしょうか。

 意外と、動きに強弱がある時の方がきつくて。常に100%で動いている時は自分が得意な動きをやっているので、スタミナが持つ。逆に自分が苦手な弱い動きをやることによって、ちょっときつさがあります。たとえばゆったりした動きからジャンプすると跳びづらさがあるので、そういうことに慣れていくためにはいいプログラムだと思います。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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