現地発! プレミア日本人の週刊リポート(毎週水曜更新)

今季初先発の遠藤航が健在をアピール アンフィールドが万雷の拍手に包まれた

森昌利

リバプールにとってはリーグ杯初戦となるウェストハム戦。全公式戦を通じて今季初めてスタメン出場した遠藤(左)は、攻守にわたって中盤を支えた 【Photo by Andrew Powell/Liverpool FC via Getty Images】

 リバプールの遠藤航が、9月25日(現地時間、以下同)のリーグ杯3回戦で今季初めて先発メンバーに名を連ねた。中盤でボールを奪い、鋭い縦パスで攻撃面でも貢献した31歳は後半37分までプレー。健在ぶりを強烈にアピールした。その3日後のプレミアリーグでは、クリスタルパレスの鎌田大地が2戦連続となるスタメン。エヴァートンに逆転負けを喫し、今季の初勝利を逃した試合後に、彼はどんな言葉を発したのか。

敬意の深さが感じられた万雷の拍手

 仕事柄、タクシーには頻繁にお世話になる。北ウェールズの小さな村に住んでいるので、国境沿いにあるイングランドのチェスターと自宅の間の14キロの道のりを今まで何度タクシーで行き来したことか。当然、タクシーの運転手とおしゃべりをする機会も増える。

 彼らのほとんどがフットボール狂だ。だから筆者がフットボールの記者だと明かすと、話があっという間に盛り上がる。筆者の最初の質問は大抵の場合、「どこのサポーター?」となる。

 相手が「リバプール」と答えると、がちっと握手を交わして、フットボール談義に花を咲かせる。リバプール近郊のチェスターにはリバプール・ファンが多い。しかし当然ながら、エヴァートン・ファンもいるし、マンチェスターとの距離もそう遠くないことで、ユナイテッドやシティのファンもいる。

 先週の木曜日にリバプールがウェストハムとのプレミアリーグ対決となったリーグ杯3回戦で5-1の大勝を飾った翌日、チェスターから乗ったタクシーの運転手は、最初の質問にしっかり「リバプール」と答えてくれた。

 そこでまず「新監督はどう思う?」と聞いた。すると、「よく分からないよ。うまくやってほしいと思っているけどね」と歯切れの悪い返事が返ってきた。さらに「オランダ人らしく、論理的なフットボールをするね」と話しかけると、「そうか、オランダ人なのか」と言うじゃないか。

 なんだこの人は、本当にリバプール・ファンなのか? そう怪訝に思った筆者の考えが表情にも表れたのかもしれない。すると運転手が思わぬ告白を始めた。

「実は5年前に同僚が交通事故で死んだんだ。ひどい事故だった。彼には2歳の娘がいて、しかも2カ月前に2人目の男の子が生まれたばかりだった。その同僚が熱狂的なリバプール・サポーターだったんだ。いつもリバプールのことを話していたよ。いい奴だった。俺はトルコの生まれでイングランドに贔屓(ひいき)のチームはなかった。それでも彼は俺にリバプールについて熱心に話しかけてきた。リバプールの話をしている時の彼は本当に楽しそうだった。だからその彼が死んで、彼が大好きだったリバプールを応援することにしたんだ。それが供養の代わりかな。本当に怠惰なファンで申し訳ないけど、応援する気持ちには変わりはないよ」

 そんな理由でリバプールを応援する人もいるのか。熱狂的なリバプール・サポーターの友人が亡くなって、その愛と情熱に敬意を示してリバプールに心を添える。これもフットボール熱が高いイングランドの中でも、最も熱いサポーターが本拠地アンフィールドを埋めるリバプールならではの話だと思った。

 そして、そんな熱いサポーターが遠藤航の交代時に、スタンディングオベーションした。後半37分、この試合で公式戦7試合目にして今季初先発を果たした日本代表主将が21歳MFのタイラー・モートンと交代してベンチに下がろうとすると、観客が一斉に立ち上がって万雷の拍手を浴びせたのである。

 メインスタンドにある記者席の周りのサポーターも一斉に立ち上がった。ぶわっと人波が立って、リバプール・サポーターの遠藤に対する敬意の深さを改めて筆者に知らしめた。

遠藤は昨季と寸分も変わらぬプレーを見せた

ウェストハムに5-1と快勝。遠藤をはじめ、プレミアでは出番が少ない選手たちが躍動し、リバプールが順当にリーグ杯の16強入りを決めた 【Photo by Andrew Powell/Liverpool FC via Getty Images】

 この試合、遠藤は遠藤だった。ウェストハムの先制点となったジャレル・クアンサーのオウンゴールを、ゴール前のスクランブルで全く意図せずにアシストしてしまうプレーはあった。しかし昨季と同様、ふてぶてしい表情で中盤の底に構え、常に相手の攻撃を止めようと虎視眈々だった。そして相手に隙があれば、果敢に縦パスを放った。

 遠藤と同じく、昨季はユルゲン・クロップの下でレギュラーを勝ち取ったジョー・ゴメスもこの試合が今季初先発だった。今夏最大の補強となった話題のフェデリコ・キエーザも初先発。面白いことに、FWディオゴ・ジョッタ以外は控え組でスタメンが構成されたこの試合のチームは、昨季までのヘヴィメタル・フットボールを彷彿とさせるプレーを見せた。

 素早いハイプレスでボールを奪って、混乱を生み出し、アグレッシブに攻めて、オウンゴールの失点後のわずか4分後にジョッタのゴールで同点にすると、後半4分に再びジョッタがカーティス・ジョーンズの見事なスルーパスに反応して、2点目を追加。そして後半29分にエースのサラーが3点目を決めて、昨季優勝を果たしたリーグ杯の4回戦進出を確定させた。

 このサラーのゴールの2分後にウェストハムMFエドソン・アルバレスが2枚目のイエローをもらって退場となり、お役御免となった遠藤はモートンにポジションを譲って、大観衆の拍手を浴びた。

 ゴールに絡む活躍をしたわけではないが、クロップのチームの中盤で喧嘩師的な存在感を示し、精神的な支柱にもなった31歳MFが先発して、昨季と寸分も変わらぬプレーをしたことに対して、サポーターが喝采を送った。

 そのスタンディングオベーションには、先発を外されても腐らず、しっかりと体調を整え、昨季通りのプレーをしている遠藤のクラブ愛と忠誠心に対する敬意がこもっていたと感じた。

 試合はこの後、左サイドから中央に切り込んで右足を振り抜く、似たような形でコーディー・ガクポが立て続けに2点を奪って、リバプールが5-1大勝。ベスト16入りし、次の4回戦では三笘薫のブライトンとアウェーで対戦することになった。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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