Jリーグ2024シーズン終盤戦の焦点

J1昇格プレーオフ進出を懸けた熾烈な争い “4つの椅子”を狙う有力7チームの現状と可能性

土屋雅史

今季のJ2で旋風を巻き起こす山口。ここに来て4連敗と失速気味だが、生え抜きの河野を中心としたソリッドなサッカーでプレーオフ進出を狙う 【(c)J.LEAGUE】

 清水と横浜FCの2強が抜け出した感のある今季のJ2リーグだが、一方でJ1昇格プレーオフ進出を懸けた争いが熾烈を極めている。いわきと山口の伏兵2チームの大躍進もあって、残り6節となった現時点でもまったく先が読めない状況だ。ここではJ2事情に詳しい土屋雅史氏に、長崎、岡山、仙台、千葉、山形を含めた有力7チームの現状を伝えていただくとともに、“4つの椅子”を巡る最終バトルの行方も占ってもらった。

昨季20位の山口が低評価を覆す大躍進

 近年でも類を見ない混戦模様を呈している。2024シーズンのJ2リーグ、とりわけプレーオフ圏内(3位~6位)入りを巡る、熾烈なJ1昇格争いのことだ。

 1位と2位に与えられる自動昇格の権利を目指し、前半戦で抜け出したのは横浜FC、清水エスパルス、V・ファーレン長崎。その安定した戦いぶりから終盤まで“3強体制”が続くかと思われたが、後半戦に入ると長崎が急失速し、2チームに大きく水を空けられてしまう。

 一方で4位以下のチームは、1節ごとの勝敗で順位が乱高下。まさに一喜一憂の日々を過ごしてきた。なにしろ第32節を終了した時点でも、プレーオフ圏内の6位ジェフユナイテッド千葉から10位藤枝MYFCまでが勝ち点4差の中にひしめく大混戦。おそらくは最終節までプレーオフ進出4チームの顔ぶれは確定しないだろう。

 昨季は20位と低迷。J3のヴァンラーレ八戸とFC大阪で研鑽を積んだ志垣良監督を新たに招聘したものの、シーズン前の順位予想では軒並み低評価だったレノファ山口FC(第32節終了時点で9位)の躍進は、今季のJ2全体を考えても特筆すべきトピックスだ。

 新指揮官はソリッドな守備をベースに置きながら、献身的なハードワークを徹底したことで、決して派手さはないものの、負けにくいグループの構築に成功。15節以降はほぼプレーオフ圏内から陥落することなく、丁寧に勝ち点を積み重ねてきた。

 攻撃面ではキャプテンマークも巻く河野孝汰と、リーグのアシストランキング2位につける新保海鈴の充実ぶりが際立っている。アカデミー出身の生え抜きでもある河野は、もともとストライカー色が強かったが、左サイドハーフ起用で新境地を開拓。ここまで8得点とキャリアハイの数字を残し、チームを結果でけん引する。新保も積極的なオーバーラップからのクロスと高精度のプレースキックで8つのアシストを記録。リーグ屈指の左サイドバックとして評価を高めている。

 堅実なチームスタイルに加え、セットプレーという武器も有していることを考慮しても、クラブ史上初のプレーオフ進出は十分に達成可能な目標だ。ここに来て喫した4連敗はやや気がかりではあるが、新たな歴史を切り拓く機は熟している。

覚醒した谷村がいわきの攻撃をけん引

J2初挑戦の昨季は18位と苦しんだいわきを攻撃面で引っ張るのが、5年目のアタッカー谷村だ。多彩なシュートパターンからリーグトップの17得点を量産する 【(c)J.LEAGUE】

 山口と同様に飛躍のシーズンを送っているのがいわきFC(同7位)だ。J2初挑戦となった2023年シーズンは監督交代も経験するなど上位カテゴリーの厳しさを味わったものの、今季はクラブの歴史を熟知する田村雄三監督の下、主力の大量流出を感じさせないどころか、よりパワーアップしたチーム力を披露。今やプレーオフ進出は現実的なターゲットだ。

 特に谷村海那の覚醒には注目が集まっている。ここまでリーグトップの17得点をマーク。決まった形に持ち込むのではなく、あらゆる状況から、あらゆるパターンでゴールを奪える稀有な得点感覚には、多くのディフェンダーが手を焼いている。

 また、田村監督を筆頭とするベンチワークも見逃せない。ときには前半の飲水タイムで選手を代えずにフォーメーションを変化させるなど、躊躇のない采配は見事の一語。山下優人や石田侑資、五十嵐聖己といった複数ポジションをこなせる選手を最大限に生かしつつ、山口大輝や有馬幸太郎、西川潤ら攻撃にスペシャリティを持つタレントの能力も存分に引き出している。

 ハワイアンズスタジアムいわきで行われるホームゲームの平均入場者数も、昨シーズンから大幅に増加。J1入りを目指す地域の機運は間違いなく高まっている。“魂の息吹くフットボール”が迎える1つの集大成。いわきのラストスパートから目が離せない。

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著者プロフィール

1979年8月18日生まれ、群馬県出身。高崎高3年時にインターハイでベスト8に入り、大会優秀選手に選出される。2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。サッカー情報番組『Foot!』やJリーグ中継のディレクター、プロデューサーを務めた。21年にジェイ・スポーツを退社し、フリーに。現在もJリーグや高校サッカーを中心に、精力的に取材活動を続けている。近著に『高校サッカー 新時代を戦う監督たち』(東洋館出版社)がある。

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