Jリーグ2024シーズン終盤戦の焦点

広島か神戸か町田か……混沌の優勝争いの結末は? 識者3人によるJ1クライマックス座談会【前編】

YOJI-GEN

ここまで連敗が1回のみのヴェルディ

下馬評を覆して躍進を遂げているG大阪と東京Vは、第32節の対戦で互いに譲らず勝ち点1を分け合った。とりわけ東京Vは第27節以降、6戦無敗と好調だ 【(c)J.LEAGUE】

──上位陣では近年は低迷が続いていたガンバ大阪と、昇格組の東京ヴェルディの健闘が目を引きます。

池田 正直、ガンバはBクラス以下を予想していました。キャンプを見て、ダニエル・ポヤトス監督のやり方は時間がかかるだろうなと感じたからです。でも、開幕戦で宇佐美貴史をスタメンから外したことが、1つのきっかけになった。危機感を覚え、本気になった宇佐美は誰も止められないということが、今あらためて証明されている。分かりやすく言うと、“家長化”したんです。歩いていても止められないすさまじいキープ力。

河治 ヤットさん(遠藤保仁)がコーチとして入閣した影響もあるのかもしれませんね。キャンプでも最後まで居残り練習をしていましたし、体質改善を含めてオフからしっかり取り組んできた成果でしょう。活躍する予感はありました。一方で、想像以上に素晴らしかったのが守備面。センターバックの中谷進之介とGKの一森純が加わって、統率の取れた守備ができるようなった。いわゆるウノ・ゼロ(1-0)の勝ちパターンも増えましたしね。ただ、ボールは持ててもかつてのような爆発力がないので、先に失点すると苦しいし、ロースコアのスリリングなゲームで勝ち切れないことも少なくありません。

舩木 確かに、一森の復帰と中谷の加入で最終ラインに1本の柱ができましたよね。加えてポヤトスさんにとって大きかったのが、徳島ヴォルティス時代の教え子でもある鈴木徳真の存在。自在なポジショニングと正確なパスで攻撃の起点となれる彼がいるといないとでは、まったく違うチームになりますから。

──ヴェルディについてはどうですか?

池田 シーズン中に主力を引き抜かれなかったのは奇跡的だったけど、一方で補強もできていないから上積みもない。ただ、キャンプで見たときから、若くて伸びしろの大きなチームだなというのは感じていた。城福浩監督の練習がハードで選手たちもそれに主体性を持って取り組んでいる。これはシーズン中にどんどん選手たちたが伸びていくだろうというのは感じていました。他のクラブも取材しているからこそ感じるのですが、この練習では選手は伸びないだろうなというチームはありますから。実際にシーズンを戦いながら、組織的な部分も、個の部分も伸ばしてきた印象があります。個人的に注目していたのは山見大登。キャンプでは存在感を放っていたんですけど、シーズン前半はサイドで起用され、途中出場が多かったし、あまり輝けなかった。今はチームが1トップ2シャドーを採用しているので、シャドーとしてばっちりハマりましたね。彼と山田楓喜がシャドーで並び、センターフォワードには木村勇大や染野唯月。なかなかの攻撃力を誇っています。

河治 ヴェルディはガンバ以上にスリリングな試合が多くて、特に序盤戦は土壇場で追いつかれたり、逆転されて勝ち点を落とすパターンが頻繁に見られました。風向きが変わったのが、0-3の負け試合を最終的には3-3に持ち込んだ鹿島戦(第13節)。そこから接戦をしぶとくものにできるようになったんです。城福監督のチームマネジメントも見事ですが、強化部門のスカウティング力も高く評価すべきでしょうね。予算が限られる中で、山田、木村、染野、山見……と期限付き移籍を活用しながら、うまく切り盛りしています。

舩木 河治さんが言うようにスリリングな試合が多い一方で、実はここまで連敗が1回しかないんです。しぶとく勝ち点1を拾い続けてきた結果が、今の順位につながっている。やっぱり、決定力のあるストライカーがいるのは大きいですよ。木村(10得点)と染野(6得点)の2人で、最終的には20~25得点は見込めそうですからね。彼らの存在は、若いチームにとって大きな拠り所になっています。

初期設定で相手を圧倒できなかった浦和

低迷する浦和に対しては、「一番がっかりさせられたチーム」という声も。原口の復帰などポジティブな要素はあるが、今季は“再建イヤー”と位置付けるしかない 【(c)J.LEAGUE】

──7位以下の第2集団には、本来なら上位に食い込んできてもおかしくないチーム、マリノス、浦和、セレッソ大阪、川崎フロンターレ、FC東京、名古屋グランパスといった顔ぶれがいます。

池田 そもそも僕は、マリノスをCクラスに予想していましたからね。残留争いに巻き込まれそうだなと思っていたので、むしろ中位に踏みとどまっていることを評価したいです。厳しい見立てをした根拠は、補強と監督。最大の懸念が、岩田智輝(バーミンガム・シティ)に続いて角田涼太朗(コルトレイク)まで流出したセンターバックであることは明らかなのに、そこになんら手当てをしなかった。しかも指揮官は監督初挑戦となるハリー・キューウェル。さらに、シーズン前半にはACL(AFCチャンピオンズリーグ2023/24)もあったわけで、厳しい戦いになると思っていました。早めに監督交代に踏み切ったことが奏功し、なんとかここまで巻き返してきた印象ですね。

舩木 監督選びは完全に失敗でした。とはいえ、キューウェル監督の解任が1カ月前でも1カ月後でも、それほど大きな変化はなかったと思うんです。なぜなら、マリノスが本来やりたいサッカーを実現するのに必要なものの大半をこの数年で失ってしまい、かつてのような強さをすぐには取り戻せないところまで来てしまっているからです。そんな中で、やはりタツさんも言ったように、センターバックの問題は大きかったですね。今のマリノスのサッカーが成立するかどうかは、畠中槙之輔次第と言っても過言ではなかった。彼のところでビルドアップの質が担保されないと、どこに起点を作ろうにも安定しない。そんな頼みの綱だった畠中までACL決勝第2戦で負傷してしまった(8月中旬に戦列復帰)。あれだけの選手の穴を埋め、マリノスのスタイルを素早く吸収できる即戦力のセンターバックは、少なくとも現在のJリーグ、特に日本人選手の中にはいませんからね。

池田 Jリーグが抱えている大きな問題の1つが、まさに日本人センターバックの空洞化だと思う。ひと昔前は吉田麻也くらいしか海外でプレーするセンターバックはいなかったのに、いまや日本代表クラスはもちろん、日本代表に選ばれていない選手でも海外挑戦する時代。そうなると国内に背が高くて、つなげるセンターバックがいなくなってしまう。

河治 しかも、海外での成功率が一番高いポジションになりつつあるからね(笑)。昨シーズンの浦和や今シーズンの夏以降のジュビロ磐田みたいに、外国籍のセンターバックを2枚並べるケースが、これからさらに増えてくるかもしれませんね。

舩木 マリノスはルヴァンカップも天皇杯も勝ち残っていて、さらにACLエリートの試合もある。この過密日程では、間違いなくリーグ戦にしわ寄せが来るでしょうし、畠中が出られない試合もあるはずです。現実的に考えて、ここから爆発的に順位を上げていくのは難しいでしょうね。

河治 ただ、これでマリノスがカップ戦2冠でも達成したら、それは相当な快挙ですからね。どうしてもリーグ戦の結果だけが評価されがちだけど、本当はカップ戦を含めたトータル評価をしてあげなきゃいけない。逆に広島は9月にルヴァンカップと天皇杯からの敗退が立て続けに決まったけれど、リーグの終盤戦に集中できるという意味で、むしろ前向きに捉えているかもしれません。

──では、みなさんがシーズン前に優勝候補に挙げていた浦和はどうですか?

池田 沖縄キャンプを見た限り、完全に優勝争いをすると思っていました(苦笑)。早めにウイングに展開し、そこのワン・オン・ワンの質で相手をぶん殴るような縦に速いサッカー。それがハマりそうな予感があったんですが、実際にシーズンが始まるとまるで違うサッカーをやっている。期待していたウインガーのオラ・ソルバッケン(エンポリ)が機能しなかったのも誤算でした。

河治 開幕2試合でペア・マティアス・ヘグモ監督の鼻が折られたというか、その後のシーズンの戦い方が難しくなってしまった。マンツーマン・ディフェンスの広島は、浦和にとって一番やりにくい相手だっただろうし、翌節のヴェルディも、また違った形のオーガナイズではありましたが、きっちり浦和対策をしてきた。「ドミネート(支配する)」という言葉通りのサッカーを掲げながら、簡単に裏を突かれて失点するシーンが続くと、予想以上に変わり身が早かったですよね。逆に言うと、そこで我慢できないくらい、初期設定で相手を圧倒できなかったわけです。今シーズン、一番がっかりさせられたチームですね。

舩木 僕も自分の見る目がなかったと言うしかないです……。シーズン前の補強を見る限り、優勝しそうだなと思っていましたから。

河治 町田が「カネの暴力」なんて言われ方をしているけど、浦和も今オフは補強にお金をかけたんだけどね(笑)

舩木 結局監督が代わり、チームのリーダー格がどんどん出て行ったのも、テクニカルディレクターの西野努さんの退任が影響しているんでしょうけど、いずれにしても今シーズンは“再建イヤー”と捉え、まずはいったん耐えるしかないのかなと。ただその一方で、原口元気が10年ぶりに戻ってきたり、夏に本間至恩や二田理央など若い選手を獲得したり、ポジティブな要素もいくつかあります。8月末にヘグモさんを解任し、マチェイ・スコルジャ監督を再招へいしたこともその1つでしょう。だからこそ来シーズンに向けて、夏に移籍した伊藤敦樹、アレクサンダー・ショルツ、そして酒井宏樹が残してくれたお金の使い方が大切になってくると思います。

※後編に続く

(企画・編集/YOJI-GEN)

河治良幸(かわじ・よしゆき)

セガ『WCCF』の開発に携わり、手がけた選手カードは1万枚を超える。創刊にも関わったサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で現在は日本代表を担当。チーム戦術やプレー分析を得意としており、その対象は海外サッカーから日本の育成年代まで幅広い。「タグマ!」にてWEBマガジン『サッカーの羅針盤』を展開中。

池田タツ(いけだ・たつ)

株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会などをこなし、撮影も行う。湘南ベルマーレの水谷尚人前社長との共著に『たのしめてるか。湘南ベルマーレ フロントの戦い』シリーズがある。

舩木渉(ふなき・わたる)

大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、横浜F・マリノスや日本代表をメインに、海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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