FC町田ゼルビア、初昇格・即優勝の偉業へ 「3つの条件」と「3つの死角」とは?

北條聡

初昇格ながら堂々J1で優勝争いを演じている町田。鉄壁の防御力を武器に、先行逃げ切りという勝ちパターンが確立されているだけに、偉業達成は十分にありうる 【(c)J.LEAGUE】

 佳境を迎えた2024年シーズンのJ1リーグ。第31節を終えてサンフレッチェ広島と同勝ち点(59)の2位と大躍進を遂げているのが、昇格組のFC町田ゼルビアだ。その戦いぶりには称賛と批判の声が入り混じるが、ここでは客観的なデータを用いながら、いまだどのチームも成し遂げたことのない偉業、「初昇格・即優勝」の可能性を探る。広島との頂上決戦(第32節/9月28日)を前に提示するのは、快挙達成への「3つの条件」と「3つの死角」だ。

※データはJリーグ公式HPの成績・データを参照

勝負強さの一因はシュート決定率の高さ

 偉大な先駆者として、その名を歴史に刻める否か。J1初昇格・初優勝の偉業に挑むのが、2位につけるFC町田ゼルビアだ。今週末、首位に立つサンフレッチェ広島との“大一番”を控えている。その結末はタイトル争いの行方を大きく左右するはずだが、決定打となるとは限らない。この項では初優勝を目指す町田の「条件と死角」を探っていく。

【条件⓵】確立された勝ちパターン

 まず、栄冠を手にするための第一の条件は確立された“勝ちパターン”の実践だ。町田の強みは《先行逃げ切り》にある。とにかく、先手を取ったら滅法強い。実際、先制した試合の戦績は15勝1分けの無敗を誇り、勝率94パーセントをたたき出している。相手は先に失点したら、まず勝ち目がないわけだ。

 しかも、接戦に強い。ウノ・ゼロ(1-0)を含め、最少得点差でモノにした勝利が9試合もある。たとえ同点に追いつかれても、決して慌てず、騒がず、したたかに勝利をたぐり寄せ、勝ち点を大きく伸ばしてきた。
 
 勝負強さの一因はシュート決定率の高さにある。事実12.3パーセントは1位タイの数値だ。黒田剛監督の説く《1本中の1本》がチームに根づきつつある証と言えるだろう。

 また、絶対的な武器であるセットプレーも特筆に値するものだ。PKや直接FKも含め、総得点の43.4パーセントを占めている。何かとロングスローが話題となるが、MF下田北斗やDF鈴木準弥らプレースキックの使い手を擁するメリットが数字に大きく反映されている点にも留意したい。セットプレーの守備に隙があるチームが少なくないだけに、正念場の終盤戦でも格好の“切り札”となるはずだ。

【条件②】鉄壁の防御

 第二の条件は最後まで鉄壁の防御を維持すること。ここまでの総失点はわずか22。もちろん、J1最少である。1試合平均の失点率は0.71で、1点取れば負けない計算だ。

 クリーンシート(無失点試合)はJ1最多の16を数える。後半戦に折り返してからは量産態勢にあり、12試合のうち実に8試合が完封だ。これに伴い、1試合平均の失点率も0.50と驚異的な数値を記録している。

 1試合平均の被枠内シュート数はJ1最少タイの3.0だ。そもそもシュートを打たせていないのである。水際で体を張って防ぐなど、その手堅さはJ1最少タイの1試合平均被ゴール期待値0.9にも表れている。

 また、際立つのが卓越したクロス対応だ。何しろ、相手のクロスが失点につながったのは一度だけ。ボールとマークする相手を同一視野に収める守備対応が徹底され、攻撃側に付け入る隙を与えない。

 主将の昌子源らセンターバック陣が防御の要。今夏に加入した中山雄太が負傷離脱中だが、実力者のドレシェビッチに加え、右サイドバックの望月ヘンリー海輝にも起用の目途が立っている。栄冠を手にするには、やはり彼らの献身的な働きが不可欠のはずだ。

守るためではなく攻めるための戦術ツール

昌子らセンターバック陣を中心とした守備はリーグ最少失点を誇る。この堅守を最後まで維持できるか。指揮官はマンツーマン・プレスもオプションとして用意する 【(c)J.LEAGUE】

【条件③】“一人一殺”のオプション

 第三の条件はミドルプレスが空転する際のオプションの実装。それが攻撃側をがっちり嵌(は)めるマンツーマン・プレスだ。第24節の横浜F・マリノス戦や第29節の浦和レッズ戦のそれぞれ後半に各選手のマークする相手を決めてハイプレスを試み、流れをたぐり寄せた。

 夏場を迎えてミドルプレスの強度が上がらず、マッチアップのズレを利用され、攻撃側のビルドアップを阻止するのに手を焼く場面が何度もあった。当然、ボールの回収地点は下がり、速攻の威力も薄れる悪循環。それを解消する手立てとして《一人一殺》へと大胆に舵を切ったわけだ。

 無論、リスクもある。誰かが1対1で負ければ、マークが順番にずれ、最終的にカバーが効かない事態に陥りかねない。それゆえ、指揮官は前半からの採用に消極的だが、後半から試みるオプションとしては有力と見ている。秋口に入れば、春先のプレス強度を取り戻すだろうが、ボールの動かし方に卓抜した川崎フロンターレとの対戦が残っているだけに、困った時の奥の手として使えるはずだ。

 言わば守る(失点回避の)ためではなく、攻める(点を取る)ための戦術ツール。鋭利なカウンタ―アタックの導火線となるはずだ。

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著者プロフィール

週刊サッカーマガジン元編集長。早大卒。J元年の93年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。以来、サッカー畑一筋。昨年10月末に退社し、現在はフリーランス。著書に『サカマガイズム』、名波浩氏との共著に『正しいバルサの目指し方』(以上、ベースボール・マガジン社)、二宮寿朗氏との共著に『勝つ準備』(実業之日本社)がある。

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