FC町田ゼルビア、初昇格・即優勝の偉業へ 「3つの条件」と「3つの死角」とは?

北條聡

カギを握るのは両ワイドを担うアタッカー

気になる材料は藤尾とオ・セフンの得点力低下だ。アシスト役だった平河の海外移籍が影響していることは確かだが、最終盤に向けて再度クロスの質を高めたい 【(c)J.LEAGUE】

【死角⓵】得点力の低下

 まず、第一の死角は後半戦に折り返してから顕著になった得点力の低下にある。それも数字を見れば一目瞭然。1試合平均の得点率が前半戦の1.63から1.36に落ち込んでいる。後半戦で勝ち点がやや伸び悩んでいる一因と言ってもいい。

 顕著なのが藤尾翔太とオ・セフンのペースダウン。1試合平均の得点率を探ると、藤尾が前半戦の0.47から0.20、オ・セフンが前半戦の0.35から0.11へ、それぞれ数値を下げている。

 原因の1つはアシスト環境の変化。チーム最多のアシスト数を稼いでいたMF平河悠が今夏に海外(ブリストル・シティ)へ移籍したことや、精密なクロスを武器に平河に次ぐアシスト数を記録する鈴木の出場機会が減ったことなどが挙げられる。また、ラストパスの数を見ても、1位は32本の平河で、2位が31本の鈴木。3位につける下田の22本を大きく上回るのだ。

 人選が代わるなか、FW陣の得点力を引き出すルートを再構築したい。とりわけ、総得点の28.3パーセントを占めるクロスの質をどう担保するか。藤本一輝やナ・サンホ、戦列に戻った相馬勇紀ら両ワイドを担うアタッカーたちの働きがカギを握りそうだ。

【死角②】“持たされる”展開

 第二の死角はいわゆる“持たされる”展開に陥った時だ。そもそも町田はポゼッションで優位に立つことを前提に設計されたチームではない。実際、1試合平均のボール保持率は44.3パーセントで下から3番目だ。

 相手に“持たせた”ボールを好位置でかすめ取り、そこから一気に仕留める奪取速攻が町田の流儀。攻撃に時間と手数がかかってしまうと、持ち味を生かしにくい。その一例がボール保持率で相手を上回った試合の低調ぶりだ。2勝1分け3敗と負け越している。

 1試合平均のボール保持率が町田を上回る相手であっても“持たされる”展開は十分にあり得る。相手が先制点をきっかけに守りを固め、速攻狙いにシフトするケースは少なくないからだ。対町田仕様の有力なプランとして選択肢に加えるチームはあるだろう。

 当然、町田も手をこまねいていたわけではない。ダブル・ピボーテの人選を組み替え、下田と仙頭啓矢、今夏に獲得した白崎凌兵らクリエイティブなMFの同時起用に踏み切り、攻撃力の底上げを企んだ。後半戦に限ると、ボール保持率で相手を上回った試合の戦績は2勝1敗と改善の兆しが見えつつある。この流れをどこまで加速させられるか。

国立開催となるFC東京戦が難所に

今季3度目の国立開催となった第29節の浦和戦も2-2のドロー。ここまで一度も勝てていない難所だが、第36節FC東京戦の結果も命運を大きく左右しそうだ 【(c)J.LEAGUE】

【死角③】“鬼門”のホーム戦

 第三の死角は意外なところにある。それがホーム戦だ。戦績は7勝4分け5敗で、今季の黒星(6敗)の大半を自分たちの根城で喫したことになる。勝率は44パーセントと5割に届かず、アウェー戦の勝率67パーセントに遠く及ばぬ数字となっている。

 なかでも、厄介なのが東京・国立競技場で開催されるホーム戦だ。戦績は1分け2敗で、まだ一度も勝っていない。まさに鬼門となっている。残り試合を見ると、第36節のFC東京戦が“国立開催”だ。ちなみにFC東京は国立と相性抜群で、今季も4戦全勝と破格の強さを誇る。前回対戦で町田に1-2と敗れており、相当の覚悟をもって臨んでくるはずだ。町田にとっては、広島との頂上決戦と並ぶラスト7の“難所”となるだろう。

 もちろん、残る2つのホーム戦も侮れない。第33節で当たる復調気配の川崎Fもさることながら、第37節に対戦する京都サンガF.C.も危険な存在。何しろ、直近10試合で7勝1分け2敗と破竹の勢いにある。今後もこの調子が続くようなら、一筋縄ではいかないだろう。果たして、肝心の“地の利”を生かし切れるかどうか。その可否もまた、町田の命運を大きく左右することになるはずだ。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

週刊サッカーマガジン元編集長。早大卒。J元年の93年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。以来、サッカー畑一筋。昨年10月末に退社し、現在はフリーランス。著書に『サカマガイズム』、名波浩氏との共著に『正しいバルサの目指し方』(以上、ベースボール・マガジン社)、二宮寿朗氏との共著に『勝つ準備』(実業之日本社)がある。

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