フェルスタッペンはこのままF1王座を失ってしまうのか

柴田久仁夫

長い戦いを終え、がっくりと座り込むフェルスタッペン 【©️Redbull】

8戦無勝利は2020年以来

 王者のここまでの低迷を、誰が予想できただろう。

 今季前半10戦で7勝を挙げ、一時は独走状態だったマックス・フェルスタッペン。しかしそれ以降は無勝利が続き、今回のシンガポールも勝てず。マクラーレンのランド・ノリスが、ジリジリと王座を脅かす状況だ。8戦連続無勝利は、2020年以来となる。そしてマックスの所属するレッドブルは2週間前のアゼルバイジャンGPで、ついにコンストラクターズ選手権首位の座から陥落した。

 2021年、メルセデスのルイス・ハミルトンと激闘を繰り広げた末に、フェルスタッペンは初タイトルを獲得した。その後は2022年22戦15勝、23年22戦19勝と、レッドブル・ホンダの圧倒的な戦闘力を武器に三連覇を果たしてきた。それが今季は、前半こそ勝利を重ねたが、中盤以降は予想外の不振に沈んでいる。なぜこんなことになってしまったのか。

いつか追いつかれるのは歴史の必然だが……

敗れこそしたが、最も苦手とするシンガポールでフェルスタッペンは2位入賞を果たした 【©️Redbull】

 考えられる理由は2つある。ひとつは、全体的なマシン性能差が拮抗してきたことだ。F1は2022年、車体下面を流れる気流で強大なダウンフォースを発生させる、いわゆる「グランドエフェクトカー」の使用を解禁した。

 技術規約が大幅に変更されると、それにうまく対応できるチームとそうでないチームとで戦闘力に大きな差が生まれるのは、これまでも繰り返されてきた歴史の必然だ。近くは2014年、それまでの自然吸気エンジンから回生エネルギーを使用するターボハイブリッドパワーユニットが導入されると、メルセデスが技術力でライバルを圧倒し七連覇を果たした。

 しかし技術規約に大きな変更がないまま時間が経過していけば、トップと下位の差は縮まっていく。これも、歴史の必然だ。たとえば2022年のモナコGP予選Q1を15番手で通過したバルテリ・ボッタスは、トップのシャルル・ルクレールからほぼ1秒離されていた。

 それがグランドエフェクト3年目の今年のモナコでは、トップから15番手までの15台がわずかコンマ4秒内にひしめいた。さらに車体開発に必須の風洞など空力施設の稼働時間も、前年の成績上位のチームほど制限が加えられる。去年のチャンピオンだったレッドブルは、最下位ハースより45%も作業量を減らす必要があった。この措置も、チーム間の実力が拮抗する大きな要因となった。

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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