フェルスタッペンはこのままF1王座を失ってしまうのか

柴田久仁夫

レッドブルは内部から瓦解しつつある?

チーム内に睨みを利かせてきたジョナサン・ウィートリーの離脱も、かなり大きなダメージだ 【©️Redbull】

 それ以上に大きなダメージとなったのが、天才エンジニア、エイドリアン・ニューウィの離脱だった。今のF1はマシン開発の細分化、分業制が進み、技術部門の最高責任者が代わっても、特に大きな支障はない。しかしニューウィだけは、別格だ。

 メルセデスやフェラーリなどのグランドエフェクトマシンが高速走行時の異常な縦揺れ(ポーパシング)に苦しむ中、レッドブルがその症状と無縁だったのは、ニューウィの手腕に他ならない。さらに去年手がけたマシンが22戦21勝の強さを見せても、今季は全く違うコンセプトのRB20を発表し、ライバルたちを驚かせた。もしニューウィが今も開発の指揮を執っていたら、適切な改良を加えることで、今のような失速はなかったかもしれない。

 しかしニューウィはシーズン真っ最中にレッドブルを離れ、アストンマーティンへの移籍を決めた。フェラーリやメルセデスから巨額のオファーをされても決して靡(なび)かなかったニューウィだが、盟友と信じていたクリスチアン・ホーナー代表がチーム内の権力争いに明け暮れる様子に嫌気がさしたといわれる。

 長年スポーティング・ディレクターを務めてきたジョナサン・ウィートリーも、ニューウィの後を追うように離脱を決めた。スポーティング・ディレクターはレース現場でスタッフを束ねる要職であり、FIAや他チームとの直接の交渉役である。なので主要チームのスポーティング・ディレクターはずっと同じ人間が務め続けることが多く、ウィートリーもチーム創設以来18年間、レッドブルに忠誠を尽くしてきた。技術、チーム運営の両部門のトップが同時にいなくなった影響は、相当に大きいといわざるを得ない。

それでもフェルスタッペンは敗れない?

F1最後になるかもしれないレースで、リカルドはフェルスタッペンのためにファステストラップをたたき出した 【©️Redbull】

 第18戦シンガポールGP終了時点で、ドライバーズ選手権首位のフェルスタッペンと2位ノリスとのポイント差は52まで縮まった。

 残りは6戦。フェルスタッペンにとって不利なのは、そのうちの3戦がより多くのポイントが稼げるスプリントフォーマットであることだ。もしノリスがスプリントレースと決勝レース全てを制したら、たとえフェルスタッペンが全て2位に入ってもタイトルは奪われてしまう。

 一方でフェルスタッペンに有利な点は、マクラーレン、フェラーリ、メルセデスのいずれのドライバーも勝てる力があり、星をつぶし合う展開もありうることだ。実際、フェルスタッペンが勝てなくなった第11戦オーストリアGP以降は、ジョージ・ラッセル、ルイス・ハミルトン、オスカー・ピアストリ、シャルル・ルクレール、そしてノリスが、勝利を分け合っている。

 とはいえ今のマクラーレンはどんなサーキットでも勝てる力があるという点で、ライバルたちの頭ひとつ上にいる。その意味でフェルスタッペンを追うノリスにとっての真のライバルは、チームメイトのピアストリということになりそうだ。

 もしノリスとピアストリがポイントを奪い合うような展開になれば、フェルスタッペンが僅差で逃げ切ることも十分にありうる。その時は今回のシンガポールでダニエル・リカルドが最終周でファステストをたたき出し、ノリスの1ポイント加算を阻止したことが、大きな意味を持ってくるかもしれない。
(了)

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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