「パリ五輪世代の突き上げ含め、質の高い競争が必要」 9月開幕のW杯最終予選、元代表主将・JFA宮本恒靖会長の注目ポイントとは?

元川悦子

会長就任後、初のW杯最終予選に向けて気合を入れる宮本恒靖会長 【©JFA/PR】

 9月5日の中国戦を皮切りに、2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア3次予選(最終予選)がスタートする日本代表。同組には前回と同じオーストラリア、サウジアラビアが入っており、1~2月のアジアカップ(カタール)で対戦したバーレーン、インドネシアも難敵と言っていい。非常にタフな戦いになるのは間違いなさそうだ。

 とりわけ初戦は、2018年ロシア、2022年カタール両W杯最終予選でもUAE、オマーンにまさかの苦杯を喫している。欧州組メンバーの数が増える中、シーズン開幕直後の9月というのは非常に難易度が高い。今回はより細心の注意を払って本番に突入すべきだろう。

 そのあたりの難しさを熟知する1人が、代表キャプテンとして2006年ドイツW杯最終予選を戦った日本サッカー協会(JFA)の宮本恒靖会長だ。当時の経験を踏まえつつ、今回の注目点やポイントを語っていただいた。

中国戦に向け、欧州組の迅速な帰国を後押し!

――9月5日の中国戦(埼玉)が迫ってきました。日本代表は最終予選初戦では毎回のように苦労している印象があります。そのあたりを宮本会長はどう見ていますか?

 W杯予選の最初ということで、どうしても全体的に固くなりがちですし、コンディション面の調整も簡単ではないと思います。

 欧州から合流するメンバーにとって、今はシーズンの立ち上げの時期。試合に絡んでいる選手は気分的にいいけど、絡めていない選手は焦りもある。全員の熱量のバラつきが出やすいタイミングだと見ています。

 そこで今回は、欧州組メンバーが8月31日、9月1日のリーグ戦直後に迅速に帰国し、2日に全員が揃うように手配を進めています。「1日でも早く集合できるようにしてほしい」というリクエストが現場から来ているので、叶えられるように努力しています。監督の森保(一)さんとも近い距離で話していますよ。

――前回最終予選の初戦だった2021年8月31日のオマーン戦(吹田)はフワッとした入りをしてしまいましたからね。

 前回は東京オリンピック(五輪)が終わって間もないタイミングで、メンタル的に少し違った難しさがあったと感じています。その反省を踏まえ、心身両面でしっかり合わせていくためにも、早く集まって一緒に行動することがすごく大事だと思います。

――中国というチームの印象は?

 コロナ禍は海外との行き来が困難で、代表強化が思うようにできなかった印象がありますけど、サイズのある選手も多いですし、やはり難しさがあるなと見ています。

――宮本会長の選手時代にも中国と何度か対戦していますが、最も印象深いのは、反日ムード一色の中、日本が3-1で勝ち切った2004年アジアカップ決勝(北京)ですね。

 あの試合は確かに強く印象に残っています。準決勝のバーレーン戦(済南)とかギリギリの試合が続いた中、決勝だけは負ける気がしなかった。逆に相手がホームで緊張していた。チームというのは、困難を乗り越えると自然とそうなるものなのかなと思いますね。

“聖地”埼玉での中国戦。選手たちの密な声掛けを望む

2004年アジアカップ決勝で中国を3-1で破ってカップを掲げた宮本キャプテン 【写真:川窪隆一/アフロスポーツ】

――当時の代表は本当に紆余曲折の連続でしたね。宮本会長が参戦したドイツW杯最終予選を振り返っても、初戦・北朝鮮戦(埼玉)は後半ロスタイムに大黒将志さん(現・枚方ヘッドコーチ)の決勝弾が生まれて、2-1で辛くも勝ち切っています。

 そうですね。アジアの戦いはアクシデントがつきもの。審判含めて緊張していますから、いきなりレッドカードが出たりすることもある。最初の15分間を落ち着いて入って、スムーズに進めていくことが、勝ち点3を手繰り寄せる近道だと自身の経験から感じます。

 あのDPRコリア戦や前回のオマーン戦のように僅差のまま時計の針が進むと、相手も「ワンチャンスあるぞ」と目の色を変えてくる。カウンター一発で点が入ってしまうことも起こり得ます。やはり先に点を取って、相手がどういう出方をしてくるかを見ながら、追加点を取るような展開が理想的。そうならなかったとしても、とにかく慌てずに試合を進めることを心掛けていくことが肝心です。

――今の日本代表は密な声掛けが少し足りないように見受けられるところもあります。

 今年のアジアカップを映像で見ていた時に、試合が止まっている状況でもう少しピッチ上で会話を交わしたほうがいいなと感じるシーンは確かにありました。

 ただ、過去のW杯予選においても課題がなかったチームはありません。厳しい戦いを経験していく中でチームとして成熟していき、コミュニケーションも深化していく。あらゆることを頭の中で描きながらチームで共有して、意思統一を図ることがとても重要になります。

――そういった集中力を引き上げるためにも、後押しするサポーターの存在は重要ですね。今回は“聖地”と言われる埼玉での一戦。機運を高めてほしいところです。

 埼玉の左側のゴールは「何かが起きる」という幸運のイメージがありますよね。オグリ(大黒)の劇的弾もそうですし、前回予選のオーストラリア戦でも浅野(拓磨=マジョルカ)がオウンゴールを演出しています。その過去も踏まえてか、「最終予選は埼玉でやってほしい」と森保監督からリクエストがありました。サポーターを含め、いろんな力で勝利に持っていくことが本当に大切です。

 今回はアジア枠が8・5枠に広がりましたけど、気を抜ける試合は1つもありません。実際、抽選を見た時には、「ザ・アジア予選やな」と感じました(笑)。地理的にも広く分布していますし、バーレーンもやりづらい相手。インドネシアも中国もアウェーは簡単じゃない。とにかく1戦1戦しっかり勝っていくことが大事だとあらためて伝えたいです。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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