「攻撃的3バック」は日本サッカー成長の証明 2連戦での「可変」に見る戦術的な幅の広がり

舩木渉

上田綺世(中央奥)や堂安律らのゴールでシリアに5点大勝。3バックも十二分に機能した 【Photo by Kaz Photography/Getty Images】

 北中米ワールドカップ(W杯)のアジア2次予選突破を3月に決めていた日本代表は、6月シリーズを次なるステージを見据えた新たなトライの場と位置づけた。そこでテストされたのは3バックの導入だ。ミャンマー戦とシリア戦を通して見えてきた新システムの現状、そして日本サッカーの現在地を選手や監督らとの対話から読み解く。

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日本代表史上初の全勝&無失点で2次予選を突破

 日本は6月11日にシリアと対戦し、5-0と大勝した。同6日のミャンマー戦も5-0で制していたサムライブルーは6月シリーズを2連勝で終え、アジア2次予選では初めて全勝&無失点での首位突破を果たした。

 今回の2連戦で大きなトピックとなったのは「3バック」の採用だ。3月の時点でアジア2次予選突破を決めていたこともあり、森保一監督はミャンマー戦とシリア戦を新たなトライの場として活用。アジア3次予選(いわゆるアジア最終予選)を見据え、戦術的柔軟性の向上を図った。

 過去の森保ジャパンの戦いを振り返ってみると、試合開始から3バックで臨んだのは国内組のみで挑んだEAFF E-1サッカー選手権を除いて5試合しかない。2019年6月シリーズの2試合、2020年11月の欧州遠征におけるパナマ戦、そしてカタールW杯のスペイン戦とクロアチア戦がその5試合にあたる。

 だが、今回の「3バック」は過去のいずれの試合とも意味合いが異なる。背景にある文脈やこれまでの歩みを読み解くと、日本代表における3バックの本格採用は日本サッカーの成長を証明するものだと考えられるだろう。

 シリア戦前後の取材では、選手たちの口からたびたび「攻撃的3バック」という声が聞かれた。相手との力量差を割り引いて考える必要があるとはいえ、実際にピッチ上で展開されたサッカーは、選手たちの言葉通り「攻撃的」で、ゴールに至るまでの流れにも再現性が見られた。

 両ウイングバックにウイング気質の強い選手を配置し、常に高い位置で相手のサイドバックと駆け引きさせる。3バックの左右に配置された選手がビルドアップの起点を担い、中盤よりも前の選手たちは流動的にポジションを入れ替えながら相手の守備を翻弄(ほんろう)した。それだけでなく攻守が切り替わると全員で前線から激しくボールに対してプレッシャーをかけ、相手に自由を与えない。

 一見するとかなり前がかりなサッカーだが、ミャンマー戦もシリア戦も無失点で切り抜けることができた。「攻撃的3バック」が成立した背景には、安定した守備があったのである。

3バック導入に対する仮説に対し、森保監督の回答は……

シリア戦の前日会見で、森保一監督は筆者の質問に対して丁寧に回答してくれた 【写真は共同】

 そして、過去の3バックと今回の3バックにおける最大の違いはまさしく「守備」にある。センターバックの3人でピッチの横幅68メートルと背後にできる広大なスペースをカバーしながら、相手のカウンター攻撃を1対1や数的不利でも潰し切るディフェンスラインのクオリティをどんな組み合わせでも担保できるようになったからこそ、日本は「攻撃的3バック」の導入に踏み切れたのではないだろうか。

 この仮説をもとに、シリア戦の前日記者会見で森保監督に「今回のシリーズで採用している3バックは攻撃的なメリットがフォーカスされがちだが、一方で広範囲を個で守れるクオリティや特徴を持ったDFの増加が導入のきっかけになったのではないか?」と質問した。すると指揮官は「ヨーロッパの舞台で戦っている日本人のサッカー選手は、(攻撃的な)2列目の選手がより多いと私自身は感じていた」というこれまでの認識を述べたうえで、次のように答えてくれた。

「質問でもおっしゃられた通り、まさにヨーロッパや世界の舞台で力を見せてくれているディフェンスラインの選手たちが多くなってきていることを今、感じています。3バックで対応しながら守備を安定させるには、カバーしなければいけないプレーエリアは広がるかもしれないですけど、そこをカバーしながら攻撃にも移っていけるというのを具現化できることを、選手たちが見せてくれているので、このチャレンジもできていると思います」

 ミャンマー戦では橋岡大樹、谷口彰悟、伊藤洋輝が先発出場し、シリア戦の前半は冨安健洋、板倉滉、町田浩樹がディフェンスラインを形成した。このように2つのユニットを作っても互いに遜色ないパフォーマンスを発揮でき、なおかつ今回のメンバーには選ばれていない中山雄太や渡辺剛といった実力者たちも常にチャンスをうかがっている。

 もちろんこれまでも素晴らしいセンターバックたちがサムライブルーのユニフォームをまとって戦ってきことに疑いはないが、カタールW杯直前までは吉田麻也か冨安を欠くとディフェンスラインに不安を抱えるチームだった。我々メディアも常に「○○不在の影響は?」と選手たちに聞いていたような記憶がある。

 だが、今はディフェンスラインの誰か1人を負傷で欠いたとしても不安を感じない。むしろヨーロッパやアジアの第一線で活躍するセンターバックがこれほど豊富に揃った日本は、過去にあっただろうか。冨安も「間違いなく(守備陣全体に)厚みは出てきていると思いますし、今までの日本代表だったら前の選手にタレントが多く見られがちでしたけど、今はチーム全体的にどのポジションにもいい選手たちがいるというのは、間違いなくいいこと」と選手層への自信を口にする。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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