古典堂安からモダン堂安へ 日本代表10番が見せた「アジア最強」のための進化形

川端暁彦

単にゴールを決めただけでなく、「右ウイングバック堂安」の可能性を示す試合に 【Photo by Masashi Hara/Getty Image】

「ウイングバック」の変化

 右に堂安律、左に中村敬斗。3-4-2-1システムを採用したこの日の日本代表は、その両翼に当たる「ウイングバック」の位置にこの2人を配置した。躍動的な攻撃の軸をこの両翼が担った日本は、6月11日に行われたW杯2次予選でシリアに5-0と完勝。無敗無失点での最終予選進出を決めている。

 この6月シリーズの目玉ともなった新システムについて、「同じ3バックでもウイングバックで誰が出るかで(狙いが)まったく違う」と言っていたのは主将の遠藤航だが、その点で言えば、「バック」ではなく「ウイング」を本職とする2人を起用した森保一監督の狙いは明瞭だった。

 一般的な、あるいは少しクラシックなサッカー観から言えば、ウイングバックに起用する選手はサイドバック系の選手が多い。日本で言えば、長友佑都のような選手が典型だろうか。運動量を武器とし、サイドの攻防に力を発揮するタイプである。例えばJリーグ公式サイトの「ポジション解説」において、「ウイングバック」はこのように定義されている。

「ウイングバックはその名の通り、ウイングとサイドバックの役割が求められるポジションとなります。3バックのシステムで中盤のサイドに位置するポジションで、守備時には最終ラインの位置にまで下がり、サイドバックのような役割を担います。攻撃時には高い位置にまで顔を出し、ウイングのようにドリブルで仕掛け、クロスを上げるプレーを行います。1人でフィールドの縦100メートル前後をカバーする必要があるため、豊富な運動量が求められるポジションです」

 これが一般的なウイングバックの理解だろう。守備時に「最終ラインの位置にまで下がり、サイドバックの役割を担う」ことを前提にするなら、当然ながら起用される選手はサイドバックとしての経験をしっかり持っている選手が望ましい。最も強調して求められる資質は、アップダウンを繰り返せる運動量であり、サイドの攻防を制するスピードが大事。そういう考え方だ。

 ただ、実際のところ、こうした「常識」が当てはまらないチームがしばしば存在しているのがサッカーの世界である。古くは、中盤中央で輝く技巧派の小野伸二を左ウイングバック、ボランチタイプの明神智和を右ウイングバックに置いて日本サッカー史上初のW杯16強入りを果たした22年前の日本代表という「前例」もある。

 さらに今日のサッカー界においては、こうしたクラシックな3バックとウイングバックに対する考え方は、さらに崩れつつある。試合を終えた直後の堂安に「そうした古いウイングバック観とは違う考え方だと思うが?」と振ってみると、こんな答えが返ってきた。

「間違いなくそのとおりで、本当に現代サッカーを象徴するような形だと思う。(堂安のような)スピードのない、サイドバックじゃない選手がウイングバックをやって、ポジショニングとかでサイドを制圧するのがモダンなサッカーだと思う」

 右CBの冨安健洋、右シャドーに入った久保建英、そして堂安の関係性は良好で、左利きの堂安を右に置くメリットであるカットインプレーから堂安によるチームの2点目も生まれるなど、この布陣のメリットは確かに感じられる内容だった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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